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森の熊さん

 「アスアド」にはフィールドモンスターが出る。RPGなので当たり前かもしれないが。

 当然、この「カラティスの森」にもモンスターが出る。中盤ステージらしくオーソドックスな能力のモンスターで、森イメージなのか全て動物型モンスターだったはずだ。少なくとも一体は動物だと断言できる。


 何故なら目の前にいるから。


「いたなぁ…こんなやつ」


 思わず頬がひきつり苦笑いっぽくなっていた。からからに渇いた喉から出た言葉はなんとも情けない音色だったと思う。


「ぐぁるるるるる……」

「ひぃっ…」


 キラーベア――鮮血をぶちまけたような色の目を持つ灰色熊(グリズリー)で、高い耐久と攻撃力を持つモンスターだ。「アスアド」プレイヤーからは「ただの熊」とか呼ばれていた。

 攻撃パターンが単調故にゲームでは大した敵ではなかったが………。


「じっ、実際目にすると、なかなかな迫力だなぁ」


 二足で立ったキラーベアはゴーレムよりもさらに大きい。唾液にまみれた牙は長く、毛に覆われた手から生える爪は鋭い。

 威圧体勢になったキラーベアに対し、こちらは既に腰が引けていた。

 しかし、後ろには荷物持ちのゴーレムが二体いる。ゴーレムはどうでもいいが、魔法書は傷付けらると困る。迎撃しか選択肢はなかった。


「ぐあぁっ!!!」

「…っ!」


 痺れを切らしたのか何かを察したのか、キラーベアが突進してくる。重鈍な足音を鳴らしながら四足で駆けてくるモンスターに咄嗟に右手を突き出した。


(炎はまずいっ!)


 イメージしたのは青色だった。

 赤い魔法陣は炎系統。黄色は土系統。そして青は………。


 キラーベアは襲いかからんと両腕を挙げた。彼我の距離は1mにも満たない。

 妙にゆっくりと感じた。緩慢な動きをするキラーベアをどこか俯瞰的に見てしまう。その凶刃がまさしく私の柔肌を侵さんとしたとき、手のひらで水弾が弾けた。


「ガッ!?」


 キラーベアからすればさぞ驚いたことだろう。なぜなら私が驚いているから。

 今使ったのは『スプラッシュ』という魔法で。水系だと最弱だ。あの巨体を吹っ飛ばせる威力が出たのはヴェヌメア御姉様のお陰だろう。


(魔女…すげぇ~!)


 飛散した水滴が木漏れ日と反射してキラキラと輝く。

 キラーベアは5~6m飛ばされていた。未だ息はあるようだが、負ける気はまったくしない。


「ぐる……ぐるる」


 のそりと起き上がったキラーベアは深紅の双眸をこちらに注いでくる。そして、キラーベアが次にとった行動は……


 ()()()()()


「えっ、ちょっ!?」


 尻尾巻いて逃げるとはまさにこの事だろう。野生のルールに従い強者から逃げたのだ。至極当然の行動だ。野性の獣ならの話だが……。

 モンスターは野性の獣ではない。「アスアド」ではモンスターが逃げることなどなかった。


「ゲームとは違うこともあるってことか…」







 二体の巨像の足音が少し耳障りだったが、大変心地よい散歩だったと思う。ほぼ森林浴状態だった。マイナスイオンに気が和む。

 狼や鹿、猪、時には栗鼠など動物型モンスターには何体も遭遇したが、水弾で威嚇したら皆蜘蛛の子のようだった。


 森林を抜けると雲一つない快晴と強い日差しが目を焼く。

 眩んだ目が慣れると、そこは風の吹き抜ける気持ちのいい草原だった。背の低い草が風に吹かれ、右見左見(とみこうみ)に揺れている。


 草原の果てには集落が見えた。名前は確か「カルナ村」だったか。私はそこに用がある。


 ずばり、この世界の詳しい年代を知ることだ……。


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