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こちら擬獣商事SE部  作者: 殻付きピヨ子
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僕と課長と姐さんと

 突然だが、僕の仕事は運用業務の補助である。何故ならば僕は「殻付きひよこ」状態だからである。何かあれば「これはどうするんですか。」と聞き、「何か気づいたことがあったら言うんだよ。」と言われても、仕事が分からなさ過ぎて何を言っていいのかわからない、そんな僕だ。だから間違っても「ちょっとこれやっといて。」なんて任される仕事はない。というか、そんなに軽く渡せる仕事が無いので、「どうしよう、コイツ…。」という空気が漂うことがある。


 そんな僕だが、この部署に引き取られた一番の理由は「豆柴姐さんの仕事が多いので、仕事を手伝う人を育てよう」という意識からだった。豆柴姐さんはとかく仕事が多い。運用の仕事もするが、庶務・経理の仕事までする。「小さい身体でそんなに頑張って…死ぬの?死ぬ気なの?」と震えてしまうほど仕事が多い。なので、僕が豆柴姐さんの補助として入り、ゆくゆくは仕事の一部を請け負うか分担するか全部任されるかになる予定である。しかし姐さんは忙しい。忙しすぎて言葉を交わせない日もあるほどだ。仕方ないので、僕は課長のところへ行く。


「ボルゾイ課長、仕事がありません。」


 敬礼もどきをして言えば、「ちょっと待ってね。」とボルゾイ課長が何かしらのメールを開く。


 ボルゾイ課長は、長身だ。ボルゾイという犬のようにすらっとしていて、毛が長い。入社して配属挨拶で回っていたときに一瞬「バンドマンかな?家業継ぐためにバンド辞めて間もないって感じかな?」と大変失礼なことを思った記憶がある。(今の部署に異動した後の飲み会で「現役バンドマンである。」と言われた時には遠からずな感想だったんだな…と思った。)

 ボルゾイ課長は僕がちょっとした理由からこの部署へ引き取られた経緯を知っていて、異動してきた当初から「自分の課へ来ないか。」と声をかけてくださっていた。そのため、課間の異動はすんなりできた(と思う)。


 メールを見ながら唸るボルゾイ課長を見ながら、僕はそんなことをぼんやりと思い出していた。ボルゾイ課長の束ねられた毛がゆらゆら揺れている。

「長くなったんでない?」

 いつの間にか、豆柴姐さんもボルゾイ課長の束ねられた毛を見ている。

「えー、切りに行く時間無いんだよお。」

「今週末も仕事か…。」

 豆柴姐さんの目が遠くを見ている。運用の仕事は365日24時間いつでも対応しなければいけないので、基本的に休みはない。交代制で仕事を回せば休みは確実に作れるけれど、会社にお金がないと交代制の仕事にはしてもらえない。メールや電話1本で途端に業務開始になるそういう仕事。

「今週末はみんなで猫カフェ行こうと思ったんだけどなあ。」

 そんな不安定な仕事だからというべきか、この課はみんな仲がいい。暇があれば飲みに行こうと声がかかるし、ちょっとした趣味の集まりだってある。一番嬉しいのは、断っても問題ないということ。いつも参加しても、好きなタイミングだけ参加しても、「参加してくれてありがとう!」な空気なのはとても素敵だと僕は思う。

「予定は潰れるっしょ。ていうか猫カフェにパソコン持っていきたくない。」

「だよねー。あ、そういえば我が家の猫さんがさ…。」

 ボルゾイ課長と豆柴姐さんの会話はとても軽い。そして業務に全く関係ない話が矢のように飛び交いつつも手はものすごいスピードで動いている。えっと、僕の仕事どうなりましたか。


「あ、これなんかどうだろう。」

 しばらくして、ボルゾイ課長がメールを引っ張り出した。どこから出したのか分からなかったけど、聞いたら藪蛇になりそうでなんとなく聞けない。

「終わったら飲みに行こうね。」

「え、この量なら定時内で終わると思いますけど。」

「定時内で我々が終わるかが問題だよねー。」

 豆柴姐さんが苦笑いしながら画面を見ている。姐さんの机の上の書類もなかなかの溜まり具合。その書類、届けるぐらいは僕しますんで…。


 結論から言えば、ボルゾイ課長も豆柴姐さんもやや常識的な時間に業務は終わったので、一緒に夕食を食べに行った。アルコールを摂取してしまうと、深夜に作業が起きた場合に対応できない場合や、持病の薬が飲めない場合があるので飲めない我々である。


 僕が異動したすぐあとぐらいにあった、そんな日常。

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