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まだまだ冒険は始まらない

「メイク落としに、化粧水、その他アメニティグッズもちゃーんと、取り揃えております!」


 と、有能侍女のカリーナは言った。


「メイク落とせるの?!ラッキー!!」


 と、答えたのは、OLのエリ。


「化粧水って、なにでできてるの?」


 と、尋ねたのは、年長のBBA、マチこと町子だった。


「ヘチマ水と、バラ水をご用意しております。天然無添加でございます!」


「それなら安心ね!」


 と、町子。


「あ、でも心配がひとつ、いえ、ふたつあるのよ」


「どのようなことでございますか?」


「私、糖尿とコレステロール値が高くてお薬飲んでるんだけど、どうすればいいかしら……仮に、代替えのジェネリック薬品のようなものがあっても、用量用法とか、気になるし…血液検査とか、できないわよね?」


「血液検査……ですか?たしかに血液を検査するという技術は、私どもの世界にはございませんが……」


「やっぱりね」


 町子は落胆のため息を漏らした。


「でも、皆さまがたのうちのどなたかが、聖女さまでいらっしゃるのでしたら、それは問題にならないかと……聖女さまには、すべての病を癒すお力がありますから!」


「なに?!聖女の力って、そんなん便利なのっ?!」


「はい。聖女の力はあまねく光となって世界を照らし、あらゆる病と怪我を治癒する、と言われております」


「言われている?」


「はい。現在この世界には聖女さまはおられません。そこで、聖女さまを教皇さまはお呼び出しになったのですが……」


「ちょい、いーっすか?」


 と、声をあげたのは、JKのサキ。


「聖女が呼ばれた理由はわかったけど、なんでついでに勇者と賢者、呼んじゃったわけなワケ?しかも、誰がどのジョブについてるのかわかんないとかー。それはありえないっしょ!」


 エリと町子も、顔を見合わせてウンウン頷き、カリーナの返答を待った。


「それは、……御三人様が、同じ世界にいらしたので、一度の召喚の儀式で、三人を呼び出せた……儀式に使う供物や神具などは、高価で、通常、使い回しができないものが多いんです。でも、同じ世界に御三方がいらっしゃったので、省エネのために、同時に呼び出したのです」


「でも、おかげで誰が聖女で誰が賢者で誰が勇者なんだかわかんなくなっちゃった?」


 と、サキ。


「まさか、皆さまのあちらの世界でのジョブが、聖女さまでも賢者さまでも勇者さまでもなかったとは、予想外だったのです…」


「ちなみにーあたしはただの女子高生だよ。サキって呼んでいいよ」


「ついでに紹介させていただくけど、私はエリ。公務員」


「あー私はマチ。どこにでもいるただのオバちゃんです。ちなみに未婚ね」


「サキ様、エリ様、マチ様ですね。あらためまして、王室付き女官。皆さまの侍女を務めさせていただくカリーナです」


 カリーナは、スカートをちょっと持ち上げ、三人におじぎおした。三人も、


「あ、ども」

 

 と、サキ。


「ここで頼りになるのはあなただけのようね」


 と、エリ。


「王宮付きの女官さんてことは、カリーナさんは、日本で例えれば、宮内庁の職員みたいなものね。さすがに、頭も良さそうだし、礼儀正しいのね〜」


 と、町子は感動していた。


「ということは、もしかしてカリーナさん自身も貴族だったりするのじゃない?」


 と、エリが言った。


「いちおう、父は爵位を授けられております」


 と、カリーナは恐縮そうに言ったあと、


「それより、当面の一番の課題は、マチ様の健康問題かと……」


 と、気遣いのある言葉を、続けた。


「やっぱり、呪文はヒールとかかしら?」


 と、エリ。


「ヒールは誰でも使える、一般魔法ですが、生活習慣病まで治すとなると、聖女の祈りでないと効果はないと思われます」


 糖尿病が、生活習慣病と、ちゃんと翻訳されてる、異世界転移って、すごいわーとか一瞬感動した町子であった。


「したら、順番に祈ってみて、ピカーッと光った人が聖女って事でいいんじゃね?」


 と、提案したのはサキ。


「試してみる価値はありそうね」


 と、エリ。


「じゃあ、私から、祈ってみるわ!」

 

 と、手を上げたのは、他でもない町子だった。


「聖女の祈りっ!!あまねく光よ、病を治せ!!」


「マチねーさん、ノリいいっすね」


 と、茶化(ちゃか)す、サキ。


「私、光った?」


「いや、ぜーんぜんダメっすね。次、あたしやってみます!えーっと、あまねく光よ、病を治せっ!!ドヤっ!!」


「ダメね、光らないわ。となると……」


 町子、サキ、カリーナの三人の視線がエリに向けられる。


「私も……その恥ずかしいセリフ、言わないとダメなんですか?」


 町子とサキは、ウンウンうなずいて、


「気持ちを込めなきゃダメよっ!」


「恥ずかしがってちゃダメーっす!」


 エリは二人にうながされ、


「んもうっ!ーーあまねく光よ、病を治せーー!」


 やけくそのように言ったのだったが、そのときエリの背後から、後光(ごこう)のごとき、ピンク色の光が、ピカーッと放たれたのであった。


「おおおおっ!」


 と、町子、サキ、カリーナの三人は、声を揃えて驚いた。


 ピンク色の光は、間近にいた三人の体を、包み込むようにぽわんぽわんとさらに発光現象を重ねた。


「心なしか……体が軽いわ」


 と、町子。


「食べ過ぎた胃もたれが、消えて行くっす」


 と、サキ。


「……足のマメが消えたみたいです……」


 ついでにカリーナ。


 光がおさまると、エリは呆然としていた。


「え?いまの光、私が……?」


「そーっすよ!やった!これで聖女判明!残り二枠(ふたわく)、あたしかマチねーさん、どっちかが勇者でどっちかが賢者っすよ、フゥー!!」


 と、はしゃぐサキ。


「できれば私が勇者ってのは、勘弁してもらいたいけどね……」


 と、(よわい)五十を超えた町子は呟いた。


 ようやく聖女が誰か判明したところで、このお話は、次回に続くのであった……。

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