女の子には事情がある!
残念感漂うイケメン王子は、深くため息をもらした。
「教皇、とりあえず、誰が聖女で誰が賢者で誰が勇者かはっきりするまで、陛下へのお目通りは無しだ。それまでーーお客人たちの世話は一任する」
「かしこまりましてございます」
と、サンタクロース似の教皇は頭を下げた。
ずいぶん腰の低い教皇がいたもんだなぁ、と、町子は思った。
ーーそして、面倒事を丸投げする王子の姿勢には、少々呆れたなぁとも、思っていた。
「下がってよい」
と、王子は、またも尊大に言い放った。
サキが、キッ!と王子をにらんで、なにか言おうとしたーーように見えたが、エリがサッ!と手でさえぎった。
その様子をジロリと見やる王子。
一触即発の雰囲気を悟って、町子は、
「あーあ、なんか喉乾いて来ちゃったな〜。お茶でも飲みたいな〜」
と、場をとりもった。
「ではでは貴賓室に案内しますですじゃ。侍女よ、これへ!」
と、これ幸いな感じで、教皇はそそくさと、三人に侍女を付き添わせ、部屋の外へと連れ出したのであった。
「いっけすっかないっ!!」
廊下に出ると、JKのサキが、まず、そう言って怒りをあらわにした。
「この国では、王族のほうが教皇より威張っているのね…これじゃあ、聖女や賢者や勇者もけっこう格下に見られているのかしら…先が思いやられるわね…」
と、OLのエリ。
「……ドッキリにしては、前置きが長いわね。……ここがもしも異世界だったとしても、あまり楽しい生活は送れそうにないわね……」
と、マチこと、町子。
五十歳を超えて、いきなり異世界召喚されて、あちこち歩かされて、いいかげん、疲れていた。
とにもかくにも貴賓室に通され、テーブルにつき、椅子に座ると、三人とも、少しホッとした。
侍女さんが淹れてくれたお茶を、おそるおそる飲むと、味は紅茶そのもので、心が安らいだ。
「そういえば、お腹も、すいたわねぇ」
と、町子が言うと、
「こちらをどうぞ」
と、侍女さんが、ケーキやスコーンなどを盛り付けた皿を出してくれた。
三人は、遠慮なんかいらないわね、とばかりに、ムシャムシャそれを食べた。
「ファミレスよりイケるわ〜〜〜」
と、町子が、感動して言うと、
「お口に合って、何よりです」
と、侍女さんが頭を下げた。
王宮の入り口から、ずっと三人を案内してくれのは、茶色の髪に琥珀色の瞳をしたメイド服の、この若い侍女さんだった。
「…えっと…侍女さん…?」
と、町子はそっと声をかけた。
「はい。カリーナとお呼び下さい」
侍女さんは、にっこり笑って、また頭を下げた。
「えっとですね、ここ、王宮にしては、やたら人気がない気がするんだけど…気のせいですか?」
と、町子は訊ねた。
サンタクロース似の教皇は、三人を貴賓室に通すと、どこかへ、アセアセと行ってしまっている。
「いえ、ご懸念はごもっともです。この王宮には、多くの者が働いておりますが、今回のプロジェクトは、なにせ国の機密事項でして、お世話をおおせつかった私を含め、ごく少人数の者どもしか、御三方様のことは知らされておりません」
侍女カリーナは続けた。
「本来でしたら、聖女様、賢者様、勇者様には、もっと華々しくお出迎えをしなければならないところを、申し訳ございません」
と、また頭を下げた。
「あなたが謝る必要ないんじゃない?プロジェクトの統括責任者は、どうせあの王子様なんでしょ?」
と、エリ。
カリーナはかしこまりながら、
「はい。仰せのとおりにございます」
と、頭を下げた。
「それよりさぁ、ここが異世界だとしてさ、ぶっちゃけ、一番気になってる事があるんだけどぉ……」
サキが、ちょっと口をモゴモゴさせながら、
「……この世界の、生理用品とか、どうなってるの、かなぁ?……アタシ、そろそろ予定日なんだよね……!」
恥じらいつつ、言ったのであった。
「それ、私も気になってました。なんの用意も無いし、滞在が長くなるんだったら、どうしようかと思ってました!」
と、エリ。
ああ、若い子に恥ずかしい思いさせちゃって悪かったなぁ、年長の自分が聞いてあげればよかった!と、反省しつつ…
「ごめん、私、もう、上がってるから、気づかなくて、ごめん!」
ぶっちゃける町子であった。
キョトンとした顔のサキが、
「上がるって、どういう意味っスか?」
と、無邪気に聞いて来たので、
「歳をとって、生理がこなくなることを、上がるって、言うのよ〜」
と、素直に答える町子であった。
「そ、そうなんですか、勉強になったっス」
「うんうん。でも、生理のときどうすればいいのかが、やっぱ一番気になるよね〜若い子には。私がいま一番困ってるのは、糖尿とコレステロールのお薬どうしようかってことなんだけど〜」
それはおいといて、とか、暗黙の了解で、とかでは済まされない異世界生活の中での女の子の事情が、そこにはあったので、あった…。