こんなトイレありえないっ!
王宮にたどり着くと、町子、エリ、サキの三人は、
「とにかくトイレ!トイレ!」
と、騒ぎまくって、
「では侍女たちに案内させますです」
と、サンタクロース似の老人を押し切ったのであった。
「……トイレ、怖いなぁ」
と、案内されている途中、町子がボソッと呟くと、それを聞きつけたJKのサキと、OLのエリは、
「どゆこと?」
と、顔を寄せて来た。
「ここが中世ヨーローッパ風の異世界なんだとしたら、あまり衛生的なトイレは期待できないかもってこと」
と、町子は答えた。
「良くて汲み取り式のボットン便所、でなきゃ、オマル、悪けりゃ穴が開いてるだけって可能性もあるわ」
「ボットン式とか、オマルって、聞いたこともないっす!」
と、サキ。
「私も実際にはそういうおトイレに入ったことはないけど…昔はそうだったって、祖母から聞いたことがあります。あと、歴史の本でも、中世ヨーローッパの衛生事情が劣悪だったことは書かれてありましたね」
と、エリ。
「わ〜そんなん最悪〜」
と、一番若い世代のサキは言ったあと、ハッとしたように、
「まさか、トイレットペーパーがないなんてことはないよね?!」
と、なぜか町子に訊いて来た。
「昔は、落とし紙っていう、四角い、ちり紙を日本では使っていたんだけど…ここではどうかしらね……」
ようやくトイレにつくと、三人はうながされて、意を決してトイレへのトビラを開けた。
そこにはーー
「えええええええ??!!」
「ありえないっ!」
「マチねーさん、話が違うじゃん!」
三人が驚いたのも無理はない。
トイレへのトビラの向こうのそのまた向こうのドアの向こうには、なんと、昨今の日本ではおなじみの、あの、真っ白な洋式トイレの便座があったのだ!
「なにこのクオリティ…日本製じゃない?」
と、呟いてから、エリは、限界が来たらしく、
「お先に失礼!」
と、中に入って行った。
事が終わった後には、ジャーッゴボゴボと、水の流れる音がした。
「ふぅ…危なかったわ。しかし、まさかウォシュレットだとは思わなかったわ!」
と、出てきたエリは、ホッとしたような驚いたような声で言った。
話はとりあえずということにして、町子とサキも、代わる代わるトイレで用を済ませた。
手洗い場の水道こそ、自動ではなく、栓をひねる蛇口だったが、トイレはどうみても現代日本並みのクオリティだった。
ここで、さきほど町子の言った、
「異世界ではなく、ここは現実世界で、自分たちは拉致監禁された」
ーー説が、一気に浮上してきた。
「でも、どうやって?」
と、エリに問われ、町子は、
「強い光でショックを与えて、その瞬間に麻酔かなにかで意識を失わせ、ここまで運んできた」
ーー説をぶちかました。
「ええっ?!でもアタシ、学校にいたんだよ。そこから拉致るとか、無理っぽくない?!」
「私も、職場のトイレに入ろうとしたところでしたし…不意をつくのは難しくなかったと思いますが、私をその後どうやって職場から運び出すかは……」
「私も、ファミレスに入ろうとした時だったから、人目は多かったと思うけど……」
と、町子も自説に無理があることを認める。
「それにさ、なんかなんか変な感じだなーと、思ってんだけど、あのおじいさんの喋ってる言葉、日本語じゃなくね?」
と、サキが言った。
「それでもなんか理解できちゃってない?アタシら?」
と、続けてサキ。
「そうですね。なにか違和感は感じてましたが、例えるならーー聞き慣れない方言だけど、言ってることはわからなくもないような……なカンジかしら?」
と、エリも同調した。
「うーん、そんなカンジも、たしかにするけど、なにせ私たち、あのおじいさんと、そもそもお互い自己紹介もしてないし…」
と、町子はBBAなりに慎重に言った。
「でも、いつまでも、トイレにこもってるわけにも行かないっす!」
「そうね、あちらに害意があれば、私たちとっくに何か酷い目にあってるはずだと、思うし…」
サキとエリは、そう言って、町子を、見つめた。
「オーライオーライ!こうなったら出たとこ勝負で行きましょう!」
町子も、観念して、そう言った。
こうして、当面のトイレ問題は片付き、三人はいよいよ、重要な局面に直面するのであった…。