さっそくトイレ問題発生
そして、とりあえず、ここで立ち話もなんだからと、一旦教会風のの建物から出されるBBAとJKとOLの御一行だった。
建物の外は、はるばる遠くまで、バラ園が続いていた。
「はー綺麗…」
と、町子が思わず感嘆な声をもらすと、
「聖女さまと賢者さまと勇者さまには、ご足労ですが、王宮まで歩いてお渡り願います。それまで、自慢の庭園を、お楽しみ下さい!」
と、サンタクロース似のローブをつけたお年寄りが言った。
「…あのぅ…」
と、OLがおずおずという感じで手を上げた。
「なんでございましょう?」
と、サンタクロース似の老人。
「……おトイレ……近くにありますか?」
「トイレ、ですか?」
「……おトイレのドアを開けたら、ここだったもので……」
と、OLは顔を赤らめて、恥ずかしそうに言った。
気の毒な召喚され方であると、町子は同情した。
自分はドリンクバーをガッポガッポ飲む前で良かった…と、思った。
「トイレでしたら、王宮内にございます」
「王宮まで、近いんですか?」
バラ園は、広々としている。
バラ園を囲むように、いくつかの豪奢な建物がポツリポツリ離れて立っている。
「…あと10分ほど歩けば着きますです」
「くっ」
と、OLは、唇をかみしめた。
「どうしても我慢できないようであれば、茂みの中で…」
と、サンタクロース似の老人が言いかけると、
「我慢します!できます!してみせます!」
と、OLは言い放ったのだった。
私も、王宮についたら、真っ先にトイレ行こう、と考えている町子の横で、JKが、
「ったく、召喚される側の都合も少しは考えて召喚しろってのなぁ!アタシは教室のドア開けたとこだったから、上履きのまんまだし…」
と、ぶつくさ言った。
見ると、足元は本当に上履きを、履いていた。
「あの…着くまでに、気を紛らわせたいし、お互いに自己紹介でもしませんか?」
と、OLが言い出した。
「私は赤塚恵理奈。エリと呼んで下さい。区役所勤めの公務員です」
「エリさん、公務員なんてマジ凄っ!!
アタシは松下咲子。サキって呼んで欲しいな。子がつく名前って、なんか古臭くて好きじゃないんだ。…まあ、高校の名前は秘密な。大したガッコじゃないし!」
自己紹介の順番は、町子が最後になった。
「私は岬町子。こないだ五十を超えた、見ての通りのBBAよ。
私のことは、マチ、と呼んでね…!」
というと、サキに、
「わっかりやした、マチねーさん!」
と敬礼された。
「ところで、私は、あえてここの世界の人間に本名を名乗らないほうがいいかも、と考えているのよ、実は。真の名、真名は、私たちの世界の魔術でも、大きな意味をもつことが多いから…」
すると、黙って聞いていたOLことエリは、
「その意見、賛成です。未知の世界の未知の人間に対して、私たちは、警戒すべきだと思う。ーーさすがマチさん、長く生きてるだけのことはありますね」
三人の密談は、サンタクロース似のローブ姿の老人に聞こえないよう、じゅうぶん離れた距離を取って行われた。
というか、老人は、スタスタスタスタ歩いているので、三人よりずっと先を行ってしまっていた。
「とにかく、私たちはマチ、サキ、エリ。それ以上の情報は、まずは与えないということで…!!」
三人は顔を見合わせ、親指をグッと突き出して、互いに「了解」しあったのであった。