イケメン残念王子ふたたび
翌日、マチ、サキ、エリの三人は、揃ってあの異世界転移統括責任者である、コージー王子に呼び出された。
三人ともサイズぴったりの上下の下着を身につけて、この世界の正装なのだろうか?下はズボンスタイル、上は豪奢な金ボタンなどをあしらった燕尾服に似た、前は短く、後ろは長い上着、その上、マントまで着せられていた。
「勇者様、賢者様、聖女様のおなりでございます!」
あの腰の低いサンタクロース似の教皇が、宣言して、ドアを開けた。
前回入ってきたときと同じく、金髪に青い瞳のコージー王子は三段ほど高い位置にある椅子にふんぞり帰っている。
「して、教皇よ…」
王子はマチたち3人への挨拶もせずに、まず教皇に話しかけた。
「誰が聖女で、誰が賢者で、誰が勇者か、わかったというのだな?」
相変わらず三段高い場所の奥まった台座に座り、肘掛けに肘をついて、喋っている。
「はい、はい、はい、判明しましてございます。殿下から向かって左にいらっしゃるのが、聖女であるエリ様、右側にいらっしゃるのが、賢者であるサキ様、真ん中にいらっしゃいますのが、勇者であるマチ様であらせられまする!」
教皇は、サンタクロース似の風貌をぱあっと輝かせて、両手を開いて熱弁した。
「ふむ…ご苦労であった。しかし…我の記憶違いか?3人のうち、1人はBBAがいたような…こんな若い娘3人では無かったような気がするが…」
マチはBBAと呼ばれたことに、少し不快感を覚えたが、黙って、そらっとぼけていた。
「ホッホッホッ」
と教皇は、顔をほころばせた。
「ここにおられますマチ様は、マジックアイテム『消滅の指輪』によって、三十歳ほど若返られたのでございます。これぞ神の恩寵!ありがたいことでございます!」
「消滅の指輪で?!あれをつけて消えなかったのか?」
「あれは身につけた人間の時を三十年ほど巻き戻すアイテムだったようでございます」
「なんと…そういう効能があったのか…」
自分たちを無視して話をされていることに、マチは苛立ちを覚えていた。そこでーー
「再びお目にかかれて光栄です、王子殿下。勇者のマチです」
お辞儀をし、胸に手を当てながら、マチは申し出た。
「賢者のサキです」
「聖女のエリです」
サキもエリも、それに倣った。
「ふむ、この国の第一王子、コージー・フォン・レクシー・イスワールである。まずは、そなたたちがそれぞれ誰が聖女で誰が賢者で誰が勇者であるのかわかったのは、めでたいな!」
「ありがたきお言葉です」
マチは、頭を下げた。
いけすかないガキではあるが、礼は尽くすべきだと思ったからだ。
「では、さっそく!そなたたちには、魔女王を倒すために旅立ってもらおうとするか!」
「は?」
「は?」
「は?」
マチ、サキ、エリは、顔を見合わせた。
「……早速って、まさか今すぐって意味じゃないでしょうね?」
マチは尋ねた。
「今すぐに決まっておろう!善は急げだ!」
「殿下、それは無理です!」
と、ここで意外な人物から、意義が上がった。
それは誰あろう、有能侍女のカリーナであった。
コージー王子は、ジロリとカリーナを睨めつけた。
カリーナは、ひるむことなく続けた。
「御三方におかれましては、こちらの世界にいらっしゃってから、まだ馴染みも薄く、危険な遠方への旅立ちなど、とてもとても寛容できるものではありません!」
「我に意義申し立てるとはな…」
王子は肘掛けを指でトントンと叩いた。
「無茶を通そうとされる殿下を諌めることもまた、臣下の務め…寛大なるお心でお聞き届け下さいまし…」
「臣下…か…そう、畏まることもあるまい。我とおまえの仲だ…」
えっ?どゆこと?何言ってくれちゃっってるの?こいつーーと、マチとサキとエリは王子とカリーナを注視した。
「なにせおまえは我の婚約者だ。そう、畏まる必要はない。だが、おまえとて魔女王を討ち倒すことが急務であることは承知しておろう」
「畏れながら、魔女王は討ち倒すのではなく、近づき油断させ、二年もの間、人間の子が生まれぬようにかけられた呪い…その術式を盗み取ることが、我らの取るべき道でございます」
「ああ、ああ、そうであったな。殺してはいかんのだったな。面倒臭い…」
フィアンセ?!
こんっやくっしゃっ?!
このイケメン残念王子と、有能侍女カリーナさんがっ?!
マチは、驚きのあまり、その後の二人のやりとりが、右の耳から入り左の耳へ抜けていってしまった。
「ーーよかろう、そなたがそこまでいうのであれば、一週間だけ時間をくれてやろう。一週間後には、旅立ちだ!魔女王の住まう雲の国へ向けてな。どうだーー我は寛大であろうーー」
こんな、躾けのなってないカンジの残念王子と婚約なんて、カリーナさんが可哀想すぎるわっ!
マチは、キッと王子を睨んだが、マチのそんな視線など、どこ吹く風か、金髪に青い瞳の整った顔と身分だけが取り柄にしか見えない王子は、ふふんと鼻を鳴らし、
「今日の謁見はこれまでとする。なお、国王陛下におかれては、体調が好転ししだい、聖女、賢者、勇者にお会いしたがっているが、いつになるかは不明だーー以上!」
尊大に言い放ち、コージー王子は、立ち上がると、奥の間へと立ち去って行った。




