よいではないか、よいではないか。(次回に続く)
「もうっ!おたわむれはよして下さいませ、サキ様!」
黒いスカートと白いエプロンを両手で押さえつつ、万能侍女カリーナは、ぷんすかむくれながら、抗議した。
「えっへへ。いいじゃん、ここには女の子しかいないし!……実は、ちょっとカリーナさんのショーツに興味があったんだけど、見えなくて残念!」
「わ……ワタクシのショーツなど、見てもしょうがないでは、ありませんかっ!」
うろたえる、カリーナ。
「いや、この世界の下着って、どんなんかなーってさ。そりゃー、アタシたちに用意してくれたショーツは、見たけどさ、うん。レース付きのショーツなんて、アタシ初めて履いたよ!ーーってか、今も履いてるけどさ。これがお客様用のスペシャルな下着だったとしたら、王室付きの侍女のカリーナさんだったら、どんなショーツ付けてるのかなぁーーってさ」
「それなら、口頭で、お訊ね下さいまし!サキ様の、賢者たる能力は、便利な反面、とても危険なものなのでございますよ!」
カリーナは、キッと、表情を引き締めた。
「へっ?危険?どゆこと?なんか、魔法を使うと、副作用があるとか?!」
「副作用は……ええっと、説明が難しいのでございますが、賢者であるサキ様であれば、小中大を問わず、属性を問わずどのような魔法でも発動可能なのでありますが、問題は、魔法を使うときに使用するエネルギーに問題があるのです」
「エネルギー?……待って、それって化学とか数学とか、そういうモンダイ?アタシ、苦手だって、言ったじゃん……」
少し、たじろく、サキ。
「苦手でも、最低限、心得ていただいておかねばならぬことが、あるのです!」
カリーナは、腰に手を当て、今までになく、引き締まった表情で続けるのであった。
「ーーサキ様は、術式、つまり、魔法の理、こととなり、理屈、仕組みが分からなくても、それ発現、実行、行なってしまうことができるのであります。それが、賢者の能力だからであります。しかしーー先程のように、風を起こすにも、火を燃やすのも、空気を水に変えるのにも、エネルギーというものは、どうしても必要なのであります。そのエネルギーは、どこから、くると想像されますか?!」
「えっ?!えっ?!ええっと!えええええっ?!わかんないっ!!わかんないよー!言ってることが、難しいよう、カリーナさん〜〜〜っっっ!!!」
「サキ様は、言葉にしただけで、物を動かすことも、火を起こすことも、空気中から水を取り出すことも、できる!できてしまうので、あります。しかし、本来であれば、それらをするには、それ相応の、力、エネルギー、燃料、が必要なのであります。そのエネルギーは、どこから供給されると思いますか?」
「きょ、きょうきゅう?」
「それは、多くの場合、術者、本人の体力から、消費されるので、あります!」
「た、たいりょく??!!」
難しい言葉ではなかったが、すでに頭の中が「???」マークで埋まっているらしいサキには、もう、初めて聞く単語のように感じられるほど、パニックになっているらしいのであった。
「つまり、魔法を使えば、魔法を使った人間の体力が、カロリーが、消費されてしまうので、あります。」
「か……かろりー……消費される……消費……カロリー……?……あれ?」
しばらくブツブツ呟いていたサキであったが、合点がいったように、
「それって、つまり、魔法を使うと、疲れるってこと……かな?」
「そうで、あります!」
カリーナは、大きく頷いた。大きな胸が揺れた。
「なーんだ、簡単な、理屈じゃん、やだなー、カリーナさん、難しく言っちゃって!」
サキは、えへへと笑いながら、頭をかいた。
「魔法を使えば、使ったぶんだけ、体力が消耗する。それがわかっているので、普通の人々は、身の丈に合った、ごく簡単な、小さな魔法しか、使いません。いえ、そもそも、術式を理解するのが難しいため、ごく簡単な魔法しか使えないと言ったほうが、正しいでしょう!」
「え?そなの?」
「はい。ですが、サキ様は特別。なにせ賢者様であらせられます。小中大を問わず、どんな属性も問わず、魔法を発現させる能力をお持ちです……しかし、それには、サキ様ご自身の体力の消耗が条件に……」
「ええっ?!それ、早く言ってよ!」
「言う前に、サキ様が風を起こされてしまったのです!」
呼応する、サキと、カリーナ。
「大きな魔法の発現には、大きな体力の消費をともなう……それだけは、知っていてもらわねば、ならなかったのでございます。……ご説明が、長くなってしまい、申し訳ございませんでした」
カリーナは、そう言うと、深々と、サキに向かって、頭を下げた。
サキと同じテーブルについている、元OL(元公務員)のエリ、元BBAで今は呪いのアイテムで若返ってしまっているマチも、はたで聞いていて、「へ〜、ほ〜、ふ〜ん」な、噛み砕いたような、懇切丁寧な、カリーナの長い長い説明であった。
「なんだ〜つまりは結局は、アタシは、大きな、強い魔法は、使えても使えないってことか、使ったら、アタシ自身が、危ないんだろ?」
「…………」
「違うの?カリーナさん?」
「それが、サキ様に限っては、例外なのかもしれないのです」
めずらしく、歯切れ悪く、カリーナは、呟いた。
「やだなぁ、なんかまだ、説明しきってないことが、あるの?もう難しい話は、無しにしてほしいなぁ……」
サキは、頭をボリボリかいた。
「まだ、お話が長くなりそうね。カリーナさん、お茶をもう一杯淹れてもらえるかしら?」
年長者のーーといっても、いまは見た目は二十歳を超えてもいなさそうなマチが、ひと息つこうと、提案した。
カリーナは、ヒラリとスカートを翻し、マチのほうに、向き直った。
「はい、マチ様。お湯は沸かしたてがよろしゅうございますね。皆様、しばし下がらせていただきます」
ペコリと頭を下げる。
マチは、うなずいて、
「そうね、お願いするわ。手間をかけて、悪いわね」
「もったいないお言葉でございます」
カリーナは、スコーンやサンドウィッチや、小さなケーキの盛り付けられたタワーは残し、茶器セットは、下げて、退出した。
部屋の中が、元JKで今は賢者のサキ、元OLで今は聖女のエリ、元BBAで今は勇者のマチ、の三人だけになると、
「しまった!」
と、サキが、思い出したように、叫んだ。
「どうしたんです?」
と、ここまでまったく出番のなかったエリが、声をかけた。
「カリーナさんの、ショーツがどんなだか、聞き忘れた!!」
クランベリーのスコーンに手を伸ばしかけていたマチは、
「あんた、いくらなんでもアホがすぎる……」
と、言いたいのを、グッと年の功で押さえて、
「……戻って来たら、聞けばいいわよ」
と、言って、甘酸っぱいクランベリーのスコーンをかじったのであった。




