やっぱチート能力でしょ!
宝物庫からの帰り道は、若返ったマチには、さほど苦にならなかった。階段を何十段昇っても、息切れしない、スゴイわっと、感動したほどだった。
あのあと、エックス・カリバーの抜けたあとのプラチナの台座から、聖剣の鞘が取り残されてしまっていたので、それを取り出すのにやっぱりすったもんだあったのだが、そんな経緯は、このもたもたストーリーの中ではさして重要ではなかったので、描写が省かれたりした、なんてことは、登場人物たちには、もちろんわからないことであった。
ようやく、自室ーーマチに割り当てられた貴賓室ーーに戻ってくると、休む間もなく、
「ねーさん、鏡、かがみ!鏡見てみてそ!早くはやく!」
と、マチは、サキに急き立てられた。
「クローゼットの扉の内側が、姿見になってましたわ!ぜひ、ご自分の姿をご覧になって!」
と、エリも急かす。
「えー?もーしかたないなー」
実はマチもドキドキがおさえられない心持ちだったが、それを押し殺しながら、あえて気乗りしないそぶりで、クローゼットに向かった。
クローゼットの鏡の中には、どこかで会ったような気がする、少女がいた。
若い頃、自分はこんな顔してただろうかーー?と、記憶をたぐり寄せようとしたが、三十年も前の自分の顔など、もう覚えていなかった。だが、どこか懐かしみを感じたりもする、ちぐはぐな感情が、胸に迫ってくる。まるで、幼馴染に、再会したかのような……
「まあまあ、可愛いわよね?」
なんて、言ってみたりする。
「イケてますって!」
と、サキ。
「なんだか、私より若くなっちゃいましたね……」
と、複雑な心境らしい、エリ。
そのとき、ドアにノックの音があった。
「昼食には遅い時間になってしまったので、アフタヌーンティーにいたしましょう、皆さま!」
と、サンドウィッチやらスコーンやらを載せたワゴンを押して、カリーナが入ってきた。
生活習慣病が治った上に、若返ったマチは、モリモリ食べた。
異世界は飯マズ設定が主流だが、この異世界では、そんなことはないらしかった。人間、一番の楽しみは、何と言っても食事である。文化あるところに、美味いメシが無いはずがないのである。
コポコポと紅茶を注ぎながら、カリーナが、口火を切った。
「さて、サキさまが賢者でいらっしゃる件につきましてですがーー」
「アタシが賢者って、なんか、ウソっぽいです。なんか、術式を解く?とか、そんなこと言ってた気がするっスけど、数学も化学も、ものすごく成績悪いし、アタシ……マジ、ちょっと自信あるの、お弁当作ることくらいで、ついでに言えば、国語も英語も歴史も地理も苦手っス!」
アセアセ言い訳するサキは、ちょっと可愛らしいな、とマチは思った。
「大丈夫です、サキさま!」
カリーナは、自分の豊かな胸をドンと叩いた。
「術式とは、数字や記号や文字で描かれるものでは、ありません。いえーー本来は、そう言ったもので描かれるのですが、賢者さまにおいては、ただ、感じるのみで、理解し、実践できるのです!」
「……。」
「……。」
「……ちょい、カリーナさん、言ってることが、意味不明……」
サキが、恐る恐るといった感じに片手を上げながら、言った。
「考えてはいけません、感じとるのです!」
ブルース・リー!!
と、マチは心の中で叫んだ。
「火の熱さを感じれば、燃やすことができ、水の高いところから低いところへ流れるのを感じれば、湧かすことができ、雷の早く疾ることを知れば、落とすことができ、風の吹くのを感じれば、飛ばすことができまする」
「カリーナさん、よく、わかんないよ……!」
熱のこもった、カリーナの言葉と、いっそう、とまどう、サキであった。
「もっと簡単に言うなら、火がメラメラ燃えるところを思い描くだけで、火で燃やすことができる、水が欲しいなと思えば、水が出てくる、雷を落としてやるー!……と思えば、本当に落雷させられる、風よ吹けーと、思えば、風が吹く、そういうものですっっっ!」
「えええっ?!そんな、簡単でいいの?思うだけ?!呪文とかは、いらないの?!」
と、ようやく、カリーナの言葉の意図するところを理解したらしい、サキが、驚嘆し、叫んだ。
「きっかけとして、呪文を唱えることは、大変に有効であります!『火よ燃えろ!』『水よ出ろ!』『雷に打たれろ!』『風よ吹け!』と、まあ、呪文というほどでもない言葉を発するだけで、サキさまは、魔法を発現させることごできるはずですっ!魔法を使えるのでございますっ!そのはずですっ!」
「おおおっ!」
カリーナの熱意が、サキにも伝わったようであった。
「じゃあーーじゃあーー『風よ吹いて、カリーナさんのスカートをめくっちゃえ!』!」
突然、小さなつむじ風が、巻き起こった。そしてそれは、見事にカリーナの白いエプロンと、黒いスカートを、めくり上げた。
チラリと、カリーナのガーターベルトが、三人の目に入ったが、その奥の絶対領域は、チラともみえなかった。
「きゃあっーー!何をするんでございますかっ!」
「サービス、サービス!」
スカートをおさえるカリーナと、右手の人差し指を立てて振る、サキであった。




