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14/21

この展開こそ、お約束っ!



 まばゆい光に、マチは目がくらんだ。


 昨日、異世界転移させられたときにも、激しい光を浴びた。その後、くらくらと車に酔ったかのような気持ち悪さが残ったが、今回は、そんなふうにはならなかった。


 パァッという発光現象が()んだ時、マチは、むしろ、スッキリ、憑き物でも落ちたみたいに、心と体が軽くなっているのを感じた。


 まだ、目の奥はチカチカしていたが、正気も取り戻したことだし、結局ピカーって光っただけの、脅かし現象だったのね〜と、自分を納得させて、カリーナ、サキ、エリに向き直った。


 と、


「だだだだだだだ誰ですかっ?!いつのまに、この宝物庫に侵入したのですかっ?!それに、マチ様をどこに隠しました?!白状なさいっ!!」


 有能侍女、カリーナが、『マチ本人』に向かって、怒鳴った。


 長めのスカートを(ひるがえ)し、太腿のガーターベルト付近から、小型のナイフらしきものを取り出して、指の間に挟む。


「返答しだいでは、ただでは置きません!」


 臨戦態勢をとる、カリーナであった。


「ちょ、ちょっと待って、カリーナさん…」


「私の名を知っているのか?!」


「…カリーナさん、目が怖いわっ!それに、何を言ってるの?私はマチ、あなたはカリーナって、自己紹介し合ったじゃない!」


 カリーナの眉根が曇る。


「……なぜ、マチ様の名を(カタ)る?!」


「カリーナさん、ちょっと落ち着いてーー!」


 と、一触即発ムードのカリーナと、マチの間に、サキが割って入った。


「ーーこれは、たぶん、アレっすよ!」


「アレとは、なんでございますか、サキ様!ーー危険因子かもしれません、お下がりくださいっ!」


 しかし、サキは、引かなかった。


「これは、たぶん、アレっすよ、異世界転移モノに付き物の、『若返り』って、やつですよ!」


「えーー?!」


「何ですか、それは?!」


 マチとカリーナは異口同音に声を上げた。


「つまりですね、そこにいる、見慣れない若い女の子は、たぶん、きっと、いや、信じられないのももっともだけどーー」


 前置きが長かった。


「ーーマチねーさん、本人なんでしょ?なんか、アタシよりちょびっとだけ上くらいの女の子に見えるけど、実は目の前にいるのは、ホントは五十歳のーー五十歳だった、マチねーさんなんでしょう?!ドヤッ!」


「サキさん、他人(ひと)を指さしちゃ、ダメよ!」


 と、横合いから、エリが口をはさんでくる。


「あ、すんません」


 と、サキは肩をすくめたあと、


「マチねーさんは、自覚ないみたいだけど、若返ってますよ、たぶん、三十歳くらい……なんか、髪もめっちゃ伸びてるし……」


 言われて、自分の髪を、手で触る。ハリとコシとツヤのある黒髪が、背中の真ん中くらいまで、伸びているのがわかった。


「なんじゃこりゃぁあ!」


 マチは、ショートボブのはずだった自分の頭髪の異変に気づき、驚愕した。


「……本当に、マチ様なのですね?」


 まだナイフのようなものを構えたまま、カリーナがつぶやく。ナイフと見えたのは、時代劇などで見覚えのある、忍者が使っていた、クナイに似た物だと、マチには見てとれた。


 暗器としてクナイを身につけているなど、本当にこのカリーナさんは、ただの有能侍女さんではないな、と、思いつつ、マチは、


「私には髪がやけに伸びたことしか実感がないけど、私、本当に、若返っているの……?」


 と、とりあえず、一番事情を把握していそうなサキに向かって訊ねた。


「指輪がピカーッと光ったと思ったら、そこに、若返ったマチねーさんが、いたっス。何かの魔法で、マチねーさんと、見知らぬ女の子が、入れ替わったと考えるより、何かの魔法でマチねーさんが若返っちゃったっていう考えのほうが、しっくり来るっしょ……?」


 そう話すサキの横から、エリが、


「服もマチさんの着てたものだし、ボディバッグもきっちり身につけてらっしゃるし、やっぱり、マチさんが若返ったって意見に、私も賛同します」


 と、胸を押さえながら、言った。わりと、繊細な性格らしいエリには、それは仰天の出来事だったに違いない。


「ーー本当に……マチ様ご本人なのですね……?」


 カリーナが、臨戦態勢を、解く。ふぅっと、息を吐き、クナイをスカートの下に戻すと、目を(つむ)って、眉根を揉んだ。何か、必死に思いを巡らしているらしかった。


「ーーその、マチ様が先ほど指に嵌められたのは、通称『消滅の指輪』と呼ばれていた、呪われたマジックアイテムでございます……その指輪に魅せられた者は、どうしてもその指輪を嵌めたくなり、その衝動に打ち勝てず、しかしそれを身につけたものは、ことごとく一瞬でその場から消滅するという、恐ろしい指輪でした。それはーー今思うに、指輪を嵌めた人間の年齢を、三十年ほど巻き戻す、アイテムだったようですね……(わたくし)、遅まきながら、たったいま、理解いたしました……」


 カリーナに、さっきまでの威勢はなく、疲れているようだった。


「なにせ勇者候補を名乗ってこの宝物庫に入り、その指輪を身につけたのは、今まで、いずれも十代、二十代の若者でしたから……指輪の真の効力は、明らかにされなかったのも道理です……」


「わー、アタシ魅力されなくて、良かったぁ!こぇ〜〜〜!」


 と、サキが両手で我が身を抱いて身震いした。


「アタシだったら、巻き戻されすぎて、この世から消えちゃったよ、きっと!」


「ーーでも、私にはラッキーアイテムと言えるみたいねん!生活習慣病が治った上に、若返ったなんて、ラッキー♪」


 マチは、ノリも軽く言ったのだった。そして、指輪を引き抜こうとした。


「これ、外したら、また元に戻っちゃうのかなぁ?どうかな〜?アレ?抜けない……?さっきはジャストフィットな感じで、スッと嵌ったのに、抜くときは、なかなか抜けないわん。ーーこのっ!」


 と、マチはしばらく奮闘していたが、


「ーーダメね、石けんかオイルを使わないと、抜けないかしら。仕方ないわねぇ」


 と、とりあえず諦めた。


 すると、もはや万能侍女と呼んでもいいカリーナが、こそっと右手を上げた。


「なぁに?カリーナさん」


 と、無邪気にマチ。


「……その、大変申し上げにくいのですが、何度も言いますが、その指輪は、呪われたマジックアイテムでして……(しか)るに、一度嵌めたら最後、死ぬまで抜けない……そういう性質の物です……」


 おずおずと、カリーナは言った。


「…………へ?」


「もう、マチ様は、五十歳には、戻れません。しかもーーその指輪を嵌めたままで、この先、成長することが出来るのかどうかも、私には、わかりません」


 真顔のカリーナに、マチも、それは冗談なんかではないことは、通じた。


「ウッソォォォオオオオ!!私、また二十歳(ハタチ)やそこらからやり直すなんて、真っ平ごめんよ!だってめんどくさいじゃない!若い女の子って、生理やら生理やら生理やらあるし、やっと上がって、これから第二の人生謳歌(じんせいおうか)しようってときに、なんで、若返っちゃうのよぉぉおお!!」


「うわぁ、若返ってイヤなことの一番、それなんだ……わかるけど、わかるけど、せっかく若返ったんだから、ぴっちぴちの体で、人生楽しむ方向に、ポジティブに生きていけばいいんじゃね?」


 と、サキが言う。


 そのサキをキッと睨んで、


「私は生理が大変たいへん、重いのよっ!量も半端なかったのよ!またあのナメクジになったような重っ苦しい日々が蘇ってくるなんて、理不尽だわ!」


 マチは、泣き出してしまった。


 そのマチの頬を、カリーナがどこからか取り出したハンカチで拭う。


「マチ様、それは心配いりませんよ……」


 慈母のように、マチの頬を、両手で包みながら、カリーナは、


「異世界からいらした皆々様方に、この世界の(ことわり)が、全部通用するのか、確信が持てなかったので、昨日は、ああ言いましたが……」


「……昨日?」


「はい、生理の日の処置の仕方についてです。確かに、生理は、あのようにやりすごすのが一般的だったのですがーーいま、この世界の女性たちは、全て、生理が止まっているのです!!!」


「えええっ???!!!」


「魔女王の、『子どもが生まれない呪い』のため、全ての女性たちは、排卵そのものが止まっているのです。そのためーー誰も生理には、ならないのです」


「それは……魔女王の呪いがそんな作用を持っているなんて……恐ろしいわねっ!」


「はい。子どもを望んでいて、しかも中年に差しかかった女性にとっては、切実な、切実な大問題なのです。魔女王を懲らしめて、術式を解けば、また、女性たちは、ツライ生理の問題に、また悩まされることになるでしょう!でもーーそれでも、生理は、排卵は、子どもたちのいる明るい未来は、取り戻さなければ、ならないのです!」


 自分に言い聞かせるように、一言ひとこと噛み締めるように、カリーナは、言ったのだった。


「ですから、マチ様も、勇者として、魔女王を懲らしめる旅に、出てはいただけないでしょうか?!それが成功すれば、たとえ生理が復活するとしてもーー明るい未来のためにっっ!!」


 いまや、カリーナの両手は、マチの両肩に置かれたいた。


 ここで、イヤという単語が、口に出来るだろうか?ーー出来ない。


 マチは、


「聖剣を引き抜く前に、私が勇者、決定したのかしらーー?」


 とだけ、言った。


「勇者は、あらゆるマジックアイテムを使いこなす資質を、持つと言われています」


 カリーナは、マチの目を見つめながら、言った。


「とはいえ、ためしに、聖剣も引き抜けるかどうか、やってみて下さいませ」


 と、カリーナは、宝物庫の最奥(さいおう)へ、三人を導いた。


 そこには、プラチナのように光るキラッキラの岩盤のような台座と、それに刀身の半ばまで突き刺さっている、意外に細身な剣とが、あった。


「さあ、マチ様!」


 と、カリーナが促す。


「ちょっと待って。これ、実は軽く刺さってるだけで、誰でも簡単に引き抜けちゃう細工なんか、されてないわよねー?」


 あまりにもいかにもな様相に、つい疑り深くなってしまった、マチであった。


「何をおっしゃられますか!お疑いならーーサキ様、エリ様、二人がかりでもよろしいですから、剣を抜こうとしてみて下さい…!」


 カリーナに言われて、


「まずはアタシ一人で抜けるかどうか、試させてちょ。これでも、結構、腕の力とか、強いほうなんだ!」


 と、サキが、ずいっと前に出た。


 岩盤の台座に突き刺さっている、細身の剣の(つか)を、両手で握る。


「ふんっ!」


 と力をこめた様子だったが、聖剣は、1ミリも動いたようには見えなかった。


「うーん、かってーなー!エリさんも、力貸してみて!」


「私は腕力には自信はないんだけど……」


 と言いながらも、エリはサキの手からはみ出ている柄の部分を握りしめ、上に引き抜こうという動作を見せた。

 

 だが、やっぱり、聖剣はビクともしない。


「ではーーマチ様、どうぞーー」


 サキとエリが、脇に退()く。


 マチは、聖剣を見つめた。その、サビひとつない刀身に、マチの姿が、鏡像として、映っている。たしかに、そこには、見慣れた五十歳の老け顔はなく、まだ十代にさえ見える、ぴっちぴちの、髪の長い少女の姿があった。


 マチは、聖剣の柄に、片手をかけた。


 そのとたん、聖剣が、まばゆい光を放った。


「ピッカーッは、もぅ、ええっちゅうのォォォオオオオ!!!」


 と、思わず口をとんがらかせて叫んだマチであった……。



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