異世界上等!!
「あ、はい。おトイレでしたら、お気兼ねなく、ここはマチ様のお部屋ですし、どうぞ行ってらっしゃいまし」
と、カリーナは返してきたが、町子はトイレに行きたかったわけではなかった。
「違うのよ、そーじゃなくって、お聞きしたいことがあるの。この王宮のトイレ、どうして日本製なのっ?!」
「そのことでしたか……」
我が意を得たり、とばかりに、有能侍女のカリーナは、胸に手を当て、
「王宮のトイレの設備につきましては、教皇様が、異世界より召喚されたものでございます。教皇様は、なんと人間だけではなく、物、無機物まで召喚することができるのであります!」
ドヤ顔で、そう言ったのであった。
「ええっ?!」
「そんなん、アリ?!」
「私たちの召喚、トイレの便座と同等なのね……」
と、町子、サキ、エリは同時に声を上げた。
「ああっ、皆さま方と、トイレの便座は、同等ではございませんよ、むろんです!なにせ皆さま方の異世界転移につきましては、同等の質量をもつ、エネルギー体、つまり、おひとりにつき、ひとりのこちらの人間が犠牲ーーもとい、こちらの人間が、代わりに皆さま方の世界に転移させられているのですからっ!!」
「へっ?!どゆこと?」
と、カリーナの言葉を理解しきれていないらしいサキが、素っ頓狂な声を上げた。
「つまり、皆さま方と、入れ替わりに、こちらの世界の人間が、皆さま方の世界に行っているのですわ!」
「ええっ!?それって、大変じゃん!」
と、これまた、サキ。
「あちらの世界では、魔法も使えないとか……転移した者は、どうなることやら……ですが、聖女様と賢者様と勇者様をお呼び出しするためには、仕方のないことですわ……あら、皆さま方、お顔の色が、優れませんわ……?」
「えっと、カリーナさん、つまりは、私たちの世界に、この世界の人が身ひとつで、飛ばされたって、ことよね……?」
と、マチこと町子は、確認した。
「さようでございます。なかなか志願者が現れなかったのですが、残された家族に大金を払うということで、平民の中から志願者を募り、丸くおさまったようです」
「わーひでー」
と、JKのサキ。
「現代の日本に、身元を証明できない異世界人が突然転移したら、さぞ大変でしょうね……」
と、哀れむように言ったのは、さきほど聖女であることが判明したばかりのエリだった。
「それで……その、私たちの世界に送られた人たちは、帰って来れるの?」
町子は、おそるおそる聞いた。これは、町子たちの身にも関わる、大事な問題である。
「事実上、不可能でごさいます」
と、キッパリと、カリーナは言った。
「こちらの、ここにおいでの皆さま方がこちらに転移させられたのと同じ場所に、同時に立ち、あちらの世界でも、あちらに行った人間が同じ時間に同じ場所に立ち、教皇様が儀式を執り行えれば、それは可能ですが、そういったタイミングをつかむのが、もはや不可能であると、推測されます……つまりは、皆さま方があちらの世界へと帰れないのと同じように、あちらの世界に行った、こちらの世界の者は、帰って来れないのでございます」
すごく重要な事実を、あっさり、淡々と告げるカリーナであった。
オーマイガーッ!!
町子は、心の中でそう叫び、天を振り仰いだ。
「帰れ……ないの?」
と、公務員の上に、元の文字が今ついたばかりのエリが、唖然とした顔つきで、カリーナの顔を見直した。
「アタシたち、帰れないんだ……」
さっきまではしゃいでいた元JKのサキも、呆然といった感じで呟いた。
町子はーーまあ、いっかーと、思っていた。
身寄りもほとんどなく、五十を超えてパートナーもなく、安いアパートで一人暮らしの、BBAには、あまり思い残すところはなかった。
糖尿も治ったし、おトイレも綺麗だし、まあいっかーと、あらためて考えた。
旅先で、トイレが綺麗か否かは、最重要事項と言っていい。
町子は、少し冷めたコーヒーを飲み干して、
「ありがとう、カリーナさん。よーく理解したわ」
と、優雅にカップをティーソーサーに戻し、言ったのであった。
異世界上等!!なので、あった。




