異世界召喚ならKY
…………。
…………。
…………。
町子は、まだ目がチカチカしていた。
昼下がり、ランチタイムを狙って、ドリンクバーをガッポガポと飲んでやろうと、近所のファミレスのドアを開けた途端、まばゆい閃光に、目がくらんだ。
ーーテロだ!
と、とっさに思ったことを覚えている。
ああ、まさかテロによる爆破事件で五十歳にして命を落とすとはーー南無阿弥陀仏ーー長かったような短かったような五十年だったーー
と、ハタと気がついた。
あれ?私、生きてる?
自分の両手を見た。
にぎにぎ動かしてみる。
次に、その手で顔を触る。
怪我、してない?
手に血は付かない。
怪我はしてないようだ。
町子は、自分がへたり込んでいることに気づき、立ち上がった。
ここは、天国ではなさそうだ。
そして、ファミレスの中でもなさそうだった。
石造りの大きな建物ーー教会に似た荘厳な雰囲気ーーの中だった。
町子は、自分のそばに、JKがいるのに気づいた。
「ちわっす!」
と、目が合うと言われたので、思わず、
「ちーっす!」
と、返してしまった町子だった。
「……ここ、どこですか?」
町子の背後から、戸惑いを含んだ、女性の声がした。
振り返ると、髪をきゅっと結んだ、スーツ姿のOL風、年の頃なら20代前半くらいの女性が、やはり立っていた。
「なんだか頭がクラクラするわ…」
と、その女性は言った。
町子も、そういえば少し車に酔ったときみたいな気分の悪さがある
「ねぇねぇ、オバさん、お姉さん、これって、アレじゃね?!」
と、JKが目をキラキラ輝かせながら言う。
「…アレって何?!」
OLは、理解不能な状況にストレスを感じているらしい不機嫌そうな声でJKに問い返した。
「……拉致監禁かしらねぇ……」
と、町子がまっとうな意見を述べると、
「ちげーって、ほら、アレって言えばお約束のーー」
と、JKが言いかけたとき、教会風の建物の、両開きの扉が、パァン!という擬音とともに、開いた。
そこには、サンタクロースみたいに見事な髭を蓄え、帽子なんだか冠なんだか、よくわからないが、銀色の被り物をし、ローブをまとったお年寄りが、これまたサンタクロースみたいな笑顔をうかべ、立っていた。
そして、そのお年寄りは、言ったのだ。
「ようこそ、我らが世界に参られた!!
聖女さま!
賢者さま!
勇者さま!
我らが世界を救いたまえーーー!!!」
…………。
「は?」
「は?」
「は?」
町子とJKとOLは、顔を見合わせた。
「……誰が?」
「…なにで?」
「……なんだかよくわからないけど、ヤッター!異世界召喚キターーー!!!」
JKは、ひとりではしゃいでいた。
こうして、女三人の、なかなか進まない異世界物語生活は、始まったらしいのであった…。