20・俺、モンスターの街道に差し掛かる
「率直に聞くが、オクノのどこがいいのだ? 円月斬!!」
飛びかかってきた狼タイプのモンスターを複数、まとめて叩き切るイクサ。
「うーん、えっとねー……あっ! 足払いっ!」
ルリアが体勢を崩した牛タイプの大型モンスターが、俺に向かって雪崩掛かってくる。
ピコーン!
『ブレーンバスター』
「どらあああああっ!!」
大型モンスターに組み付き、俺はそいつを垂直に抱え上げた。
そして、他にゴブリンみたいなモンスターたちがわいわいとひしめいている場所にそいつを叩き落とす。
地面が爆発したように吹き上がり、牛型モンスターが白目を剥いた。
「よっしゃー! こいこいこい!!」
俺がモンスターどもを挑発すると、連中はいきり立って吠えた。
だが、今目の前でデカブツをぶん投げた俺に、すぐさま飛びかかってくる連中はいない。
「これ、こういうことだよー」
「どういうことだ?」
ルリアのよく分からない説明に、イクサが訝しげな顔をした。
「はいはい、怪我はない? お姉さんが癒やしてあげるー。ん? 何の話してるの?」
アミラがやって来て話に加わった。
今のところ、ルリアがちょっと擦り傷を負ったくらい。
俺はアホほど頑丈になって来ているので、なかなか怪我をしないのだ。
「イクサくんがね、なんであたしたちがオクノくんを取り合ってるのかって」
「ああ、そういうこと? 簡単よ。彼って腕っぷしが強いでしょ? それに、お姉さんたちが困ってるとノータイムで首を突っ込んできて解決してくれるの。相手が伯爵だったのに、平気で楯突きに行ったでしょ?」
「確かに俺ともすぐさま戦ったな。勇者どもが横槍を入れてきた時も、俺から奴らへと標的を変えた。獣のような嗅覚で相手を見極めたな」
「何も考えてないだけかもしれないけどね」
そんな会話が後ろでされている間、とうとう飛びかかってきたモンスターたちを、俺は千切っては投げ、千切っては投げ。
狼タイプ、鳥タイプ、ゴブリンタイプ、ムカデタイプに食人植物、フェアリータイプに……。
モンスターが多いんだよ!
「おらあっ! ジャイアントスイング行くぞー!!」
手近なゴブリンに掴みかかり、そいつの足をとって俺ごと大回転。
近寄るモンスターを片っ端からなぎ倒していく。
最後にゴブリンから手を離すと、そいつは遥か彼方へとぶっ飛んでいった。
「オクノくん頼りになるー!」
「権力にもモンスターにも屈しない腕力! やっぱりこれよねー!」
「二人とも!! お喋りしてないで戦って!!」
俺の教育的指導が入る。
このやり取りに、イクサは何やら納得顔だ。
「なるほどな。この男には財力も権力も、甲斐性もあるまい。だが、よく分からない強さだけがある。その一点のみで、オクノを魅力的だと捉えるのは理解できるぞっ……真空斬!」
空中から接近してきた鳥型モンスターの群れを、真空の刃で切り払うイクサ。
「しかしどういうことだ?」
「へ? あたしらとオクノくんの関係?」
「そうじゃない。モンスターどもが次々に湧いて出る仕掛けだ。普段ならば食物連鎖を起こしているような連中が、こぞって俺たちに牙を剥く。スタンピートとは何だ?」
「イクサが頭良さそうなこと言ってるな……。そうだな、俺も気になる。スタンピートはなんで起こるんだ……っと!!」
巨人型モンスターが掴みかかってきたのを、フライングメイヤーでいなす。
転倒したそいつに、
ピコーン!
『エルボードロップ』
「おらあっ!!」
俺の肘が巨人の頭に叩きつけられ、そのまま叩き割った。
そのまま勢い余って大地を割った。
でかいひび割れが地面に広がって、そこにモンスターたちが飲み込まれていく。
「やべえ!! 思った以上に技の威力がでかいぞ! ルリア、アミラ!」
「ひゃ!」
「きゃ!」
二人を抱えて、広がるひび割れから退避だ。
これを、呆れ顔のラムハとカリナが出迎えた。
「聞こえてたわよ。スタンピートについてね?」
知っているのか、記憶喪失なのに詳しいラムハ!
「モンスターの核みたいなものがいるって聞いたことがあるわね。恐らく開拓村は、その核を掘り起こしてしまったのかもしれないわね。あるいは、核を起動させた何者かがいる……とか」
「モンスターの核か。それをぶっ飛ばせば、フロンティアがモンスターまみれなのは解決ってことだな。分かりやすい」
「普通、これは無理難題って言うのよ。分かりやすいなんて言う人は他にいないわ。王国の騎士団だって、まだフロンティアを奪還できてないっていうのに」
ラムハが苦笑した。
確かにモンスターの数は多い。
これを正面突破するとなると、騎士団とやらがどれだけいたって難しいだろう。
ならば簡単な方法があるじゃないか。
「スペルエンハンス、幻獣術! ロックバイソン!」
俺は、さっきブレーンバスターで投げ飛ばした巨大牛型モンスターを作り出す。
そして、こいつの幻をみんなの上にかぶせて、モンスターのふりをして歩くのだ。
「これでいけるかなあ?」
「大丈夫です。さっき、モンスターの体から取った皮を持ってきています。みんなこれを被ってください」
「くさーい!」
カリナが大変準備がいい!
俺たちはモンスターの皮を被り、自分たちのにおいを消した。
どうやら、モンスターたちは目と鼻でモンスターか人間かを見分けているみたいだ。
そもそもこんなに数がいるのに、フロンティアの外に出てきてないことがおかしい。
モンスターの核とやらに操られてるせいだろうか。
「幻の呪法をこんなに長時間使って大丈夫なの?」
ラムハが尋ねた。
良い質問だな。
「実は術ポイントがゴリゴリ削れていっているので、これがゼロになったら解けると思う」
「やっぱり……。幻の呪法は使い手が少ないけれど、こうしてずっと呪法を展開しているのは大変な精神力がいるって言われているわ。でも、オクノに無理してもらわないと突破できないものね」
記憶喪失のくせに何でも知ってるラムハだ……。
実際、幻の呪法を維持し続けるのは結構大変だ。
これ、普通の呪法使いなら半分も持たないでMPがゼロになるのでは?
だが、俺の呪法はスペルエンハンスで強化してある。
これで、幻の持続時間を長くした。
そのぶん、普段の幻獣術とは違い、作り出したロックバイソンに戦闘力はない。
「何かにぶつかられたら終わりだぞ。そっと避けていこう」
「そうなれば俺がこの剣でモンスターを仕留める」
「それは最終手段だからな? な?」
イクサに言い聞かせながら、俺たちはそろりそろりとフロンティアへの道を抜けて行った。
危うく術ポイントがゼロになるか否かというところで、モンスターが溢れている道を抜けられたのだった。
「無茶苦茶な呪法の運用をしたせいで、術ポイントが伸びた気がする……」
「そうね。オクノは呪法使いとしても、一流の域に達しつつあるんじゃないかしら」
我がパーティ一の呪法使い、ラムハがそう言うからにはそうなのかもしれない。
俺は呪法レベルが無いから、よく分からないんだが。
さあ、では今のステータスを確認してみよう。
名前:多摩川 奥野
技P :405/405
術P :215/215
HP:442
アイテムボックス →
・ジャイアントスイング・ドロップキック・フライングメイヤー
・バックスピンキック・ドラゴンスクリュー・シャイニングウィザード
・フライングクロスチョップ・サンダーファイヤーパワーボム・エアプレーンスピン
・ブロッキング・ラリアット・ブレーンバスター
・エルボードロップ
・足払い・二段突き・風車
・スラッシュバイパー・二連打ち・グランドバイパー
・影縫い・サイドワインダー・アローレイン
・連ね射ち
・スペルエンハンス・パワーエンハンス・アンチマジック
◯幻炎術◯幻獣術◯雷幻術
◯幻影魅了術
幻影魅了術!?
もしかして、俺がさっき使っていた呪法、幻獣術ではないのでは。
仲間たちのレベルも上がっていたのだが、そろそろうちの女子たちは一国の騎士団くらいの強さになっているかも知れない。
これは、俺によるレベリングが行われてるようなもんだろうか。
強いに越したことはないし、その方が生き残る確率が上がる。
彼女たちの成長ぶりは、この先で見せてもらうことにしよう……!




