映画館と思い出
拙い文章ですがよろしくお願いします。
館内は静かで、上映を告げるアナウンスだけが無機質になり響いていた。
「なんかこの独特の静かさ。懐かしいな〜」
あかりは辺りを見渡しながら、少し感慨にふけっているようだった。
「このポップコーンの香ばしい匂いとかも子供の頃を思い出すよ。幼い頃はキャラメル味が好きだったんだけど、年齢を重ねるにつれて味が重くなってきてさ。中学に上がる頃には塩味が一番好きになってたな」
賢一は昔を懐かしみながらそう話す。
「男の人ってみんなのんな感じなのかなって思います。私にも弟がいるんですけど、家族で映画を観に行ったとき、二人で一つのポップコーンを食べるんですよ。幼い時は両者一致でキャラメル味を頼んでいたんです。でもある時、弟が塩味が良いって言い出したんですよ。そのとき喧嘩になって、結局お姉さんが我慢しなさいってお母さんに言われて嫌々塩味食べたんですけど、そのポップコーンがとても美味しくてほとんど一人で食べちゃったことがあったなーって」
「はは、あかりさんらしいね。ていうかあかりさんに弟がいたなんて初耳だな。確かにあかりさんってお姉さんって感じがしてしっくりくるけど、今は自立して一人で暮らしていたりするのかな?」
「大輔は……あっ大輔というのは弟の名前なんですけど、今は家を出て写真家の卵として頑張っています」
「へ〜写真家か、カッコいい仕事だね。憧れるよ、自由に生きてる感じがして」
「ホント自由に生きすぎなんですよ。昨日もなんの連絡もなしに帰ってきたりして……」
「ということは大輔くんは今、帰ってきているのかい? それは申し訳ないことをした。積もる話もあっただろ? 無理に僕の我儘に付き合わなくても良かったのに」
あかりは賢一が予想外の食いつきを見せてきたので少し驚く。
「いえ! 全然大丈夫ですからっ、気にしないでください。今日も仕事に出かけてると思いますし! ほら、映画何観ます?」
気づけばあかりは気づけば喧嘩していたはずの大輔の話をしていた。喧嘩していて いることを悟れせないようにあかりは半ば強引に話を切り替える。
賢一はその強引さに気づいてはいたが深く詮索する事なくあかりの話に乗っかる。
「あかりさんは普段はどんなジャンルの映画を観るのかな? 僕は話題になっている作品をとりあえず観とこうってスタイルだからさ。あかりさんが観たいのがあればそれを観たいな」
あかりはちゃんと話に乗ってきた賢一に心の中でお礼を言い、そういえば自分も特別好きなジャンルがないことに気がついた。
『ここは女の子らしく恋愛映画が無難かね。いや、男性目線でアクション映画? あ、ホラー映画ってのもデートじゃ定番かぁ。うーん裏をかいてアニメってのもアリか? ん? これは……?」
あかりは館内に貼られている現在放映中の映画ポスターを見比べながらデートの最善案を探していた。そして一つ、最善案か分からないがあかりが興味を示す作品があった。
「『アース』。世界各地で数年にかけて撮影した自然本来の美」
賢一はあかりがこのポスターに惹かれていることに気づき、ポスターに書かれている文を読みあげる。
「僕はこういった作品は観たことないんだけど、あかりさんはこういったのも観るんだ。知的なイメージがあって素敵だね」
「いえ、観たことはないんですけど、なぜか気になってしまいまして……」
「いいんじゃないかな。僕もそれすごく面白そうだと思うし上映時刻もそろそろだし丁度いいんじゃないかな」
賢一はそれだけ言うと受付に行き、チケットを二枚買ってきて、そのうちの一枚をあかりに渡す。
チケットを受け取ったあかりはバッグから財布を取り出しお代を渡そうとするが、賢一に手で止められる。
「今日は僕に付き合ってもらってるさ、お礼って訳じゃないけどお金は僕に任せてくれないかな?」
「 でも……」
前も言ったがあかりはデートをしたこともないし、自分の力で生きてきたので人に頼るということに慣れていない。
「ここは僕を立てるためだと思ってさ。お願い」
賢一は少し大げさに両手をあわせる。そう言われてはあかりは黙って引き下がるしかなかった。
賢一も満足し、今度は二人で鑑賞用のポップコーンやドリンクを買いにいく。
「ポップコーンは塩味かな? それともキャラメル?」
先ほどの話を踏まえてあかりが塩味とキャラメル味のどちらを頼むか、賢一は内心楽しんでいた。
「そんな賢一の心情など露ほども知らないあかりは非常に迷っていた。あまりに真剣な表情に店員さんも笑顔を引きつらせていた。
「あの〜こちらにミックスと呼ばれる商品がございまして、これなら両方の味を楽しめますよ」
店員の親切な助言にあかりは目を輝かせて謝辞を述べた。
「ありがとうございます。それじゃあミックス一つお願いします」
「はい。かしこまりました」
あかりがポップコーンを受け取ると、館内に『アース』の入場案内のアナウンスだった。
「ちょうど良かったね。中に入ろうか」
あかりも賢一も久しぶりの映画でドキドキしていた。
「スクリーン大きい〜」
中に入ると心地よいBGMと大きなスクリーンが出迎えていた。
「あかりさん。こっちだよ」
賢一は素早く自分たちの座席を見つけて荷物を下ろす。あかりも荷物を下ろし、賢一のとなりに座る。
「「…………」」
映画が始まるまでの数分。
あかりと賢一の間には妙な緊張感があった。それはここが暗いのと、あまり声を出せないこの場所のせいだろう。
「っ!?」
すると肘掛に手を置いていたあかりは突然その手が握られてお尻が浮くほど驚く。
あかりは賢一の顔を見るが、暗くてよく見えなかった。賢一も勇気を振り絞った行動だろう。
あかりは驚きさえするものの、手を離そうとはしなかった。
お読み下さりありがとうございました。