デート
拙い文章ですがよろしくお願いします。
外はピクニックに持ってこいな快晴だった。
翌日の9時50分。普段はしないおめかしをし、タンスから一番可愛いらしい洋服を掘り出し、お昼のお弁当を持参し、駅前で賢一を待っていた。
結局昨日は、大輔と喧嘩をしたあとはお互い顔を合わせてはいない。
あかりの中ではまだモヤモヤした気持ちがあるが、せっかくのお誘いをすっぽかすわけにはいかないし、今日は賢一がどんな人物なのか色眼鏡なしで見定めようとしている。
そんなモヤモヤとは別に、初めてのデートであかりは緊張していた。手鏡を見て前髪を直し、手鏡を仕舞ったと思ったらまた取り出し、前髪を整える。全然変わっているようには見えないのだが、緊張で黙っていられないのだろう。
「おまたせ」
すると不意に背後から爽やかな声で聞き覚えのある声が届く。
「ひゃあぁっ!」
あかりは声の主が賢一だと一瞬で分かったが、前髪を整えている最中を見られた恥ずかしさで悲鳴をあげてしまう。悲鳴をあげたほうが恥ずかしいのだが、本能的にあげてしまったらしい。
「あ、ごめん。驚かせてしまったかな」
賢一はそんなあかりの恥ずかしい悲鳴も気にする様子もなかった。
「いえ! 謝らないでください。こちらの方こそお見苦しいところをお見せしてすいませんでした!」
「見苦しいところ? ああ、前髪を直しているところか。そんなの女の子なら当然ではないのかな? ごめん、あんまり女性と接したことないからわかんないや。でも別に不快には思ってないから安心して」
「それはありがとうございます……って! また謝ってますよ賢一さん!」
「ん?」
あかりは、この人は仕事で謝り慣れてるのかな? なんて失礼なことを考えてしまう。
「ところであかりさんは結構早くから来てたのかな? 待たせてしまったのなら謝りたいんだけど」
「もう謝るのはやめてください。大丈夫です。私も来たばかりなので」
本当は緊張と気まずくて家に居にくいという理由から一時間以上前からここに立っているのだが、それは賢一には秘密。
あと少し賢一が来るのが遅かったら警察に職質されるところだっただろう。
「そう。なら良かったよ。もしもあかりさんを一時間も待たせるようなことになってたら、切腹ものだったよ」
本当か嘘かもわからない明るい笑顔で賢一は随分と物騒な言動を呟く。
「それはシャレですよね?」
「さあ? それは今度試してみれば?」
賢一は白い歯を出しながら小悪魔的に笑う。 その笑顔は普段より幼く、少年のようだった。
「……やめておきます。賢一さん、嘘はつかなそうだから」
「冗談はいくらでも喋るけどね。嘘はあんまり得意じゃないからさ」
この言葉自体が嘘の可能性があるのだが、少なくともあかりには嘘をついているようには見えなかった。
「ここで立ち話するのもなんだし、どっか行こうか。話は歩きながらでもできるしね」
「はい。そうしましょう」
あかりは賢一に促されるように歩き出す。
行き先は決まっているのか、賢一の足取りには迷いがない。しかし、きちんとあかりの歩く速さに合わせて歩いているのはさすがと言わざるを得ない。
「ベターだけど映画を観に行こうと思って。ここ数年忙しくて観に行く暇すらなかったからさ。ちょっとち個人的すぎる理由だけど」
今向かっているのはどうやら映画館らしい。
確かに映画といえばデートの定番だ。
まだお互いのことをあまり知らなくて、でも一緒に居たいというのなら、話題が切れて沈黙が流れるのが怖い時は迷わず映画に行けばいい。
そうすれば二時間は話さなくてもよいし、映画が終わったあとは映画の内容について話していれば話題に困ることもない。さすが三大デートプランの一つである。ちなみに後の二つは、夜景の綺麗な場所と動物園or水族館だ。
賢一はなんの意図もなくただ映画を観たいだけであるが。
「私も映画観たいです。私ずっとお店にいるので、大人になってからは一度も観に行ったことがないんですよ。見たいなーと思う作品もあったりはするんですが、テレビで放映されるのを待ってしまうんですよね」
あかりは少し恥ずかしそうに頰を染める。
その横顔に賢一は見惚れているようだった。
「それ分かるなー。どうせ後でただで観れるんだから、そん時でいいや。って思っちゃうんだよね」
「賢一さんもそんな庶民的なこと考えるんですね。ちょっと以外です。賢一さんってほら、なんというか本物志向っぽいイメージがあるから」
「そんな風に見える? 全然庶民的だと自分ではおもってるんだけどなー」
「賢一さんって、家は高級マンションの最上階で、夜はバスローブに身を包みながらワインでも飲んでいるイメージなんですけど」
あかりはここぞとばかりに普段の疑問をぶつける。
「そんなに!? 全然違うよ。家は実家で両親と住んでるし、家では半袖短パンだし、お袋の作ったアテでビールやらチューハイを飲んでるよ」
あまりにもテンプレートな庶民だったのであかりも驚愕の色を隠せない。人は外見や言動では測り切れないといったところだろうか。
「私の中の賢一さん像が……」
すると賢一は不安そうな顔をしてあかりの表情を伺う。あかりはその顔の近さに赤面して俯いてしまう。
「い、いえ……とても好感を持てました。賢一さんもちゃんと同じ人間なんだなって」
「ははっ、なにそれ。当たり前だよ。…………ってほら、着いたよ、映画館」
気づくとあかりと賢一ははすでに映画館の前を通り過ぎるところだった。寸前まで映画館のことに気がつかなかったところを見ると、二人とも今の会話をとても楽しんでいたらしい。
二人は会話を名残惜しそうな顔で見合わせたが、映画も観たい気持ちがあかりと賢一にあったので、お互いはにかんだ後、足並みを揃えて中に入る。
お読み下さりありがとうございました。