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一章

ラノベの賞に応募したもの。

 世界を変える方法は主に3つある。


貴族街に続く門の前で少年が叫ぶ。少年は門の前に立っている兵士に向かって今にも殴りかからんとし、そんな少年を涙を流す女性が必死に抑えつける。

「なんでだよッ! あんたら騎士なんだろ!? だったら俺達を助けろよォ!」

 少年は鎧を着た騎士に向かって喚き散らす。

 そして1人の騎士が口を開く。

「お前たち下民の頼みを聞いていられるほど我々は暇ではないのだよ。わかったら早く帰れ」


 1つは理解。互いに相手のことを考え、分かり合う。最も理想的な方法。


「ねぇ、騎士さん」

 貴族街の奥から派手な服を纏い、多くの装飾品を身につけた、太った女が騎士に声を掛ける。

 背後から声を掛けられた騎士は、すぐさま振り返り返事をする。

「はい、何でしょう?」

「うちの猫ちゃんが見当たらないの……捜してくれないかしら?」

「お任せください」

 女と共に貴族街に歩を進めようとする騎士の背中に向かって、少年は怒鳴り散らす。

「オイッ! 暇がねぇんじゃなかったのかよ!? 猫は捜して消えた村人は――父さんは捜してくれねぇのか!?」

「お前たち下民と貴族様の飼い猫――いや家族、どちらが価値があるのか考えろ」

 少年は騎士の言葉に怒りを覚え、歯を食い縛り、睨み付ける。


 1つは破壊。後に望む新たな世界を創造する。最も現実的な方法。


「何アレ。汚らわしい。怖い下民ね」

「ご安心ください。貴族街には1歩たりとも入れはいたしません。ここには警備は他にもおりますので」

「そう? それなら安心だわ」

 騎士は派手な女と再び歩を進める。そして途中1度立ち止まり、振り返って笑いながら少年に告げた。

「悔しいならこの国を変えてみろ。そうしなければ俺達騎士団は下民のために動かない」


 1つは支配。頂点に君臨し、全てを統べる。最も効果的な方法。


 村に帰った少年は、一緒に帝都まで行っていた幼馴染の少年に話し掛ける。

「ハイネ……」

 ハイネと呼ばれた僕は、返事を口に出さず、君に目を向けた。

「俺は……俺は騎士団に入る。そして父さんたちを捜して、貴族や下民――階級差別のない世界に変えてみせる」

 その時の僕は何も言えなかった。君のその言葉が希望からではなく、絶望から来るものだとわかっていたけれど、僕は君を止められなかった。

 僕の中にも同じ気持ちがあったから。

だからせめて君とともに――。

「僕も一緒に騎士団に入るよ」

「ああ」

 返事は短かった。


 そして君は――その日から笑わなくなった。

一章


十三年後現在 ローゼンクロイツ帝国 帝都某所


 多くの人が行き交う石畳の広い大通り。ローゼンクロイツ帝国騎士団の鎧を身につけた青年が見回りのため、周囲を見渡しながら通りを歩く。

 十数年前、父を探し階級差別を無くすと決意し、村で友人と鍛錬を重ね、下民且つ他国血統の倭国人でありながら、斬術と2つの魔術のみによる実力で騎士学校に入り、そのまま騎士団へと入った男、ヒューゴ。

 彼は変わらず今もなお絶望していた。現在齢24となり、騎士団に入って数年経つというのに、その場所は昔と同じ階級差別が蔓延り、父を捜すことも叶わない自らの無力さと不甲斐無さに。

 父を含めた十数名の村人が失踪してから十年以上経ち、もはや父を見つけることは不可能だと諦めている。それでも母のためと、せめて失踪の真相を探ろうとしていたが、その母も数年前に他界した。なお未だ騎士団に残っている理由は、生きるため。そして実力主義である騎士団の上に上り詰め、父を見捨てた帝国を力による支配で変えるため。これは彼にとって復讐だ。

しかし、数年してそれも叶わないだろうと確信する。

 帝国は世襲制度が根強く、それが基本となっている。それは騎士公位も同じ。建前上は実力主義となっているが、上位騎士の多くは貴族出身者であり、平民以下は極僅か。そして上に上がって行く者は、例え無能であろうと爵位を持つ貴族がほとんどだ。平民以下は、ヒューゴのように見回りや貴族街口の警備など雑務が押し当てられる。

 そのように惰性で続けている騎士の仕事をしている最中、いつもと違う光景を目にする。

 だが警戒が必要なことではない。

 いつもの大通りでは、ただ通り過ぎる者、露店を開く者、それを見て回る者、立ち止まって話をする者、大別してその4種の人間しかいない。

しかし今は多くの者が立ち止まり、まるで蟻が蜜に群がるかのように、数か所の壁に向かって群衆を築いている。

自分の露店を離れてまで、その群衆に紛れる店主までもいる。それを隙と見たのか、服装からして恐らく下民の少女が店主無き露店から食べ物を盗む。少女は、鎧姿のヒューゴに気付き、足を止めた。

騎士であるヒューゴは本来それを見過ごすべきではないのだが、店主が盗まれたことに気付いていないため、気付かれる前に早く立ち去るように手で指示した。

罪とは、罪だと誰かに認識されなければ罪にはならない。罪がなければ罰もない。

ヒューゴは路地裏に消える少女を横目に人々が群がる先を見に向かう。そこには一体どんな蜜があるのか。

「何かあったのか?」

 彼は群衆の1人の男に、背中から話しかける。

「ん? ああ、騎士さんか。なんだ、あんたも興味あるのかい?」

「そりゃあ、これだけ人が群がっていれば気になるだろ」

「そりゃそうだな。気にしないのは貴族様ぐらいだ」

「どういうことだ?」

 平民下民は、これ程までに夢中になるのに貴族は気にしない。彼はそのことが気になった。

「何やらお姫様の1人が魔王に攫われたんだと。それでそのお姫様を連れ帰った者には富と名声と爵位を与えるだとよ。だから皆、貴族になれるチャンスだって注目してんのさ。詳しく知りたいなら自分で見てみな」

 ヒューゴは、群衆を掻き分け煉瓦の壁に貼られた1枚の貼紙に目を通した。


 勇者募る!


 まず目に入ったのは、でかでかと書かれたこの文字だった。そしてその大きな文字とは対照的に細々と書かれた文字に目を通す。


 昨夜、第7皇女にして第13皇位継承者であらせられるアイリス・ローゼンクロイツ皇女殿下が魔王に攫われた。帝国は、皇女殿下奪還のためここに勇者を募るものとする。

 皇女殿下を無事奪還した者には、富・名声・爵位を与えるものとする。

 また魔王の討伐も行うことができた者には、皇族に迎え入れるものとする。


 勇者に志願する者は、本日正午城門内広場に集合せよ。

 また帝国騎士団に所属する者は、勇者に志願できないものとする。


 以上が、貼紙の内容だった。

 読み終わったヒューゴが少し動いたことでそれを察したのか、さっきの男が話しかけてきた。

「今、皆これに夢中さ。平民、下民は貴族になるチャンスだってね。ま、あんたは興味ないだろうけどね。騎士ってことは貴族なんだろうからさ」

 これがさっき男の言っていた『気にしないのは貴族ぐらい』なのだと理解する。だから、ヒューゴは男に言葉を返す。

「いや……俺は下民の出だ」

「ん? そうなのかい? 下民で騎士団に入るってすごいじゃないか。でも、残念だったな。騎士は勇者に志願できないんだとよ」

「……そうか?」

「え?」

 ヒューゴは身を翻し、群衆を抜けようとする。

「おい、どこ行くんだ? 見回りの続きかい?」

「いや、勇者とやらに志願しに」

「何言ってんだ。騎士は勇者に志願できないんだぜ?」

「阿呆。だったらやめりゃあいいだろ」

「やめるってあんた……」

 ヒューゴはそれ以上言葉を返さなかった。


正午 城門内広場


 そこには多くの人が集まっていた。

 ほとんどの者はすでに武器を携えている。重い甲冑に身を包んでいる者もいる。

 各々が色々な想いを持ってここに集まっている。

 しかし見た目や立ち振る舞いから、集まっているのは主に平民と下民だと窺える。それだけで多くの者の胸中を察することができるだろう。

 ヒューゴもまた彼らと同じ胸中を持つ者である。

 彼は動きやすい私服に身を包み、使い古された武器――主に倭国で使われる片刃の湾曲した刃を持つ刀――を腰に携え、広場の端に立っていた。今の彼はもう騎士ではない。

「やっぱりここにいたんだね」

 多くの者が集まっているこの場では、それが誰に掛けられた言葉かは音だけでは判断できないため、声のした方向を向いてそれを確かめる。

 そこには見知った顔があった。

「ハイネ……お前――」

 声を掛けてきたは、同じ村から帝都に上がり、共に騎士団に入った幼馴染のハイネだった。

「なぜここにいる?」

「君こそ。まさか騎士をやめて勇者に志願するなんてね。まぁ、予想できたけど」

「お前も……なのか?」

「そう。報酬が大きいからね」

「だが、お前なら下民出でも上に行けたはずだ」

 騎士団に於いて貴族が優遇されるのは、貴族にはそれだけの能力を持った者が多いからだ。重要視される能力は〝魔術〟だ。貴族の殆どは血統上、卓越した魔術の才能を持って生まれる。故に、例え指揮能力が皆無でも命令する立場として上に上り詰めることができる。

 魔術の才能に欠けるヒューゴが、騎士団で上に上り詰めることができない大きな理由だ。

「どうかな。どんなに魔術の才に長けていても下民出であることには変わりないし、世襲制度もある。騎士団長になるのは難しい」

 騎士階級に於いて国に影響力を持つだけの発言をできる者は、最高位である騎士団長だけ。

 2人が目指したのはその階級と強さだった。

 しかし、倭国人の血統を持つヒューゴの魔術の才は乏しかった。対照的にハイネは、生まれつき高い魔術の才を有していた。

 だからヒューゴは、ハイネなら騎士団長になることもできるだろう思っていた。

「……そうかもな。団長なんてバケモンみてぇな強さだしな」

「あれには勝てる気がしないよ」

 2人は過去に1度だけ騎士団長の戦いを目にしたことがある。そして2人ともその時の印象が強く残っていた。

「だから勇者になって階級飛び狙いか」

「君も同じだろう? ヒューゴ」

「まぁな」

 2人が少し話した後、周囲のざわめきが大きくなり、そして静かになった。

「諸君、よく集まってくれた」

 広場全体を見下せる城の高所から、大臣らしき人物が声を上げる。

「知っての通り、昨夜、我がローゼンクロイツ帝国第7皇女であらせられる、アイリス・ローゼンクロイツ殿下が悪しき魔王に攫われた。よってここに集まった者には勇者として、魔王の下に赴き皇女殿下の奪還をしてもらいたい。皇女殿下を無事奪還した者には、富・名声・爵位を与えよう。また魔王の討伐も行うことができた者には、皇族に迎え入れると皇帝陛下は仰った。諸君の活躍に期待する」

 大臣は話し終えると場内に姿を消し、後の説明は他の者が引き継いだ。

 勇者説明会は終わり、皆がぞろぞろと会場だった広場を後にする。ヒューゴとハイネの2人も集団に紛れて広場を出る。

「なぁ、帝都を出る前に武器屋に寄っていいか?」

 広場を出た後、集団から離れハイネに尋ねた。

「ん、いいけど……ああ、もうそれ古いものね」

 ハイネはヒューゴの提げている刀を見て察する。田舎村から出て騎士の証である騎士団章を獲得するため、訓練養成所である薔薇十字騎士団院に入った頃、買ったものだ。彼はもうそれを10年近く使っている。

「ああ、もう刃を研いでもほとんど斬れねぇ。鍔も砕けてねぇしな」

「じゃあどこで買う?」

「低級騎士の安月給じゃあ高価なものは買えねぇからな。適当に安いとこ探すか」

「そうだね」

 2人はいくつかの武器屋を回って安くて質のいい店を探した。しかし、どの店も他の勇者たちが犇めき合っており、まともに買い物をできる状態ではなかった。そして数軒の店を回って全く混んでいない店を見つけ、そこに入った。

「ここにするか。武器探しにあまり時間を掛けてらんねぇしな」

「僕も少しお金出すよ。僕は武器買わないから」

「打術と魔術が使える奴はその辺楽でいいな。俺は武器がなきゃまともに戦えねぇや」

 ヒューゴは、武器屋に置かれている武器を手に取りながら話す。彼が求める武器は、今と同じく刀だ。しかし、刀は倭国で生まれた武器なため、帝都の武器屋には数が少ない。ほとんどは両刃の直剣が占めている。

「親仁、刀はこれだけしかねぇのか?」

 店内に置かれた十数本の刀を差して店主に尋ねる。どんな店でも裏に在庫があるものだ。

「ああ、刀はそんだけだ。剣なら沢山あるぜ」

「いや、刀が欲しい。その壁に掛かってるやつは?」

 店主の後ろの壁に仰々しく飾られている1本の刀を指差して尋ねる。

「悪いがこれは売りもんじゃない。買うならそこにあるやつから選んでくれ」

「そうか」

 ヒューゴは、再び十数本の刀を品定めする。そして数分が経ち、店主が声を掛けてきた。

「そんなに刀が欲しいのか? 剣じゃあ駄目なのか?」

「ああ。俺は今まで刀しか使ってこなかったからな」

「いくらまでなら出せる?」

 その問いには、何かあると感じ取ったヒューゴは、今出せる金額を答えた。

「70万だ」

 皇女奪還・魔王討伐を行うための旅の費用、それが失敗した場合のしばらくの生活費、そしてその期間収入源がないため、ある程度手元に残しておく必要があった。その限界が70万だ。実際にはまだ出すことができるが、必要以上に出しても損をするため、相手の出方を窺がうために少し少なく見積もった。

「70万かぁ……、うーん」

 店主は考え込む仕草をする。それが更に金を出させるための、策略かは定かではない。だから、店主が次の言葉を発するまではヒューゴも口を開かなかった。そして沈黙が終わる。

「よし、いいだろう」

 店主は後ろの壁に飾られている刀を下して、カウンターに置く。

「あんたにこれを売ろう。70万だ」

 ハイネもその刀に興味を持ち、ヒューゴと共にカウンターの前に立つ。ヒューゴは刀を手に取り鞘から抜いて刃を見る。

「重いな」

 それがその刀の第一印象だった。そして特徴的なのは他の刀とは違う黒い刀身。その黒はヒューゴの髪の色よりも暗く深い黒だ。刃を近くで見ても金属らしい光沢はあれど、そこにヒューゴの赤い目が反射して見えるようなことはない。

「黒鋼か?」

「詳しいことはわからない」

「わからない? 何故だ?」

 店主が口を開こうとした瞬間、ハイネが何かに気付き割って入った。

「こ、これって白漣集(はくれんしゅう)じゃない!?」

「ハイネ、7000万ならともかく、白漣集を高々70万で売るわけねぇだろ」

「いや、それは白漣集だ」

 店主が断言する。

「鋒辺りの鎬地に集番が彫られているだろ?」

 2人が鋒はわかるが鎬地がわからないことを察した店主は、指で集番とやらが彫られている場所を指示した。

 店主の指の先には漢数字の〝一〟が彫り込まれていた。

「この集番と呼ばれる一から千までの数字が彫り込まれているものは白漣集だ」

 店主の言葉にハイネも頷く。どうやら彼はこの数字を見て、白漣集だと気付いたようだ。

 彼らがさも当然のように交わす〝白漣集〟という言葉。これは昔、古今東西双つとしてこの世に並ぶ者なしと言われる鍛冶師〝白漣〟が打ったとされる、刀の総称。この白漣は現存するほぼ全ての武器の原型を作ったとされる人物である。

「一から千ってことは、これは一番初めの作品か」

「違う」

 店主とハイネが同時に否定した。ハイネは続きを店主に譲り、口を閉じる。

「白漣集は千から始まって一で終わる。初めから1000本だけ創るつもりだったんだろうと言われている。その推測が本当かどうかは知らんがな。だからそれは終わりの作品、終作と呼ばれとる」

「なるほど、最後の作品か。確かにいい刀だ。俺は刀に詳しくはねぇが、良品と粗悪品の違いくらいはわかる。で、これが本当に白漣集、しかも終作だと言うなら、なんで70万なんかで売る? コレクターとかに売れば、さっき言ったように俺の100倍以上の値段で買うはずだ」

「……ああ、売ったさ。でも返品されちまったんだよ。刀を買ったその日から不可解なことが起こり始めたらしくてな。それで呪われてるって返されたんだ。そしてその噂が広まって今じゃ誰もこの店に寄りつかない。だからさっさとその刀を売りたいんだよ。だけど、それでもやはり白漣集だからな。ある程度の金額で売れねぇとオレも困るってもんだ」

「それで70万か」

「本当は100万以上で売りたいんだがな。でも帝都じゃあ刀より剣の方が人気だ。アンタ以外はもう買ってくれそうにねぇから、70万で売るよ」

「更に安くはならねぇか?」

「早く売りたいが、流石にこれ以上下げる気はねぇ」

「そうか……なら70万で買おう。他に良さそうな刀もねぇしな」

「本当にいいのか? 呪われているかもしれないんだぜ?」

「早く売りてぇんだろ? 買ってやるって言ってんだ。客の心配なんかすんな」

「わかった。アンタに売った!」

 ヒューゴは70万をカウンターの上にポンと置き、白漣集の終作である刀を受け取った。


武器屋を後にした2人は、その足で帝都の出口へと向かった。帝都の周りの魔物は弱いが、万が一のため帝都を一周する形で高い壁が築かれている。主な外壁門は東西南北の4つがあり、魔王城があるとされる魔境の方角は西なため、西の外壁門へ向かう。恐らく全ての勇者がその門から魔境を目指すだろう。

2人が西の外壁門に近づくと、そこに佇む1人の見知った顔に気が付く。

彼女もこちらに気が付いたようで、2人に近づいてきた。

「やっと来たわね」

 開口一番の言葉は、ここに2人が来ることを予見していたかのようなものだった。

「レティ! こんなところでどうしたの?」

 ハイネが彼女の名前を呼び、尋ねる。

 薄く明るい色の金髪でロングヘアの彼女の名前は、レティアル・クリューレス。元貴族だ。

「あなたたちを待ってたのよ」

「待ってたって!?」

「私も勇者に志願したの」

「騎士は?」

「あなたたちと同じでやめたわ。爵位がないから下級騎士止まりだったし。だから、あなたたちと一緒に行って皇女殿下を連れ戻して爵位を手に入れるわ。報酬が与えられるのは1人だけって決まりもないしね」

 旅仲間に加わる気満々のレティに、わざと聞こえるように言ったのかヒューゴが一言呟いた。

「1人で行けよ、阿呆が」

 その呟きを聞き取った彼女は、ヒューゴを睨み付ける。

「うるさい黙れ、あんたが1人で行きなさいよ」

 彼女の反撃に舌打ちをする。

「あんたに言われたように、あれから私は努力したの。今はあんたより強いわ。戦力としては申し分ないはずよ。それにあんた未だに2つの魔術しか使えないんでしょう? あとは斬術だけ。それだけで魔王に勝てると思ってるの? その程度で勝てないから未だに誰も魔王を討伐してないんでしょう? だったら戦力は1人でも多い方がいいに決まってるじゃない」

「ツッ……はいはい、わかりました」

 彼女の捲し立てに再び舌打ちをして、露骨に嫌そうな顔をして同行を了承する。

「じゃあ、これからまたよろしく」

「君がいると心強いよ」

 ハイネとレティは握手をする。だがヒューゴにはしない。レティは再びヒューゴを睨み付ける。それにはハイネも苦笑いを浮かべるしかなかった。

 3人は外壁門を出て西に向かった。

 ヒューゴとレティ、この2人は仲が悪い。

 彼ら3人が出会ったのは、薔薇十字騎士団院に入った頃にまで遡る。


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