入学 入部 そしてライバル
四月ー。私たちは地元の中学校に入学した。
春休みを終え、久しぶりに会った純平くんは背が伸びて、スラリとしていた。この何日かで、イケメンの仲間入りを果たしていた。
長くて眠い入学式が終わればクラス発表。
ドキドキしながら表を見る。私は2組、純平くんは―
3組だった。
『なーんだ、違うクラスだ。』
少し寂しいと思ったのはなんでなのか。その時の私は気にもとめなかった。
純平くんが後ろに立っていた。
「あ、3組だ。お前2組?」
「うん。」
「まぁ、隣だしいっか。ほんとは同じクラスがよかったけどね」
私が言えないことを純平くんはさらっと言ってしまう。多分、自覚はないんだろうけど。
「海咲ー!部活見学行こう?」
友だちが呼んだ。
「純平くんは美術部見に行く?」
「おう。」
「じゃあ、後でね。」
友だちはみんな吹奏楽部志望だった。1時間も音楽室にいて、かなり退屈だった。私は他も見てくると言ってやっと音楽室を出た。廊下に出ると、中庭を挟んで反対側の校舎にある美術室がみえた。
『もう、1時間もたってるし帰ってるかな?』
私は美術室にむかった。
美術室の廊下には、宇宙科学館に10回行くともらえる土星のストラップを付けたカバンがあった。これは私が純平くんにあげた物だ。(ちなみに、私は水星をペンケースに、木星をカバンに付けている。)美術室はしんとしていた。覗いてみると、純平くんが1人、先輩方の作品を眺めていた。
「純平くん?」
返事はない。また音のない、純平くんだけの世界に入ってしまったようだ。そっとドアを閉め、純平くんの隣に立つ。純平くんの薄茶の瞳は1つの作品を映していた。
それは海の絵だった。とても澄んでいて、限りなく海に近い、見たことのない青色で描かれた海。周りを水色のような、薄紫のような押花が囲っていた。コラージュの作品のようだ。私はひと目でこの絵の虜になった。不思議な気持ちになる。ずっと見ていたら入り込めそうな気さえする。
絵の下には「夏川 蒼」という文字。
「どんな人かな。」
不意に純平くんがつぶやいた。
「え?」
私の声に純平くんがびっくりしたように振り向く。
「え!お前いつからいた!?」
ほんとに気づいてなかったみたいだ。
「さっきからいたよ。
この絵、すごく綺麗だね。なんか、綺麗って言葉じゃ物足りないくらい。」
「うん。こんな絵初めて見た。それにこの青色、どうやって出すのかな。」
しばらく2人でその絵を見ていた。時計の音しか聞こえない。
「私、美術部に入る。」
純平くんはポケットから細長い紙を出した。
入部届だった。そこにはもう顧問の印鑑があった。
「俺はもう入った。あと担任に出すだけ。」
流石だ。行動が早い。
クラスは違うけど、部活が同じなら全然平気かな。そう思ったとき、ドアの開く音がした。
「あれ?見学?」
そこには綺麗な女の子が立っていた。まっすぐでサラサラの黒髪を耳にかけながら歩いて来る。
ネームには「夏川」の文字。
純平くんの頬はほんのりピンクになっていた。