冬哉兄さんの寮の部屋にて…
寮の廊下を歩いてたら。
「幸矢。早速来たんだな」
目の前に冬哉兄さんが居た。
「うん。兄さんに相談したいこともあったし……」
まぁ、単なる暇潰しだけど…。
「わかった。俺の部屋に行くか?」
私は、冬哉兄さんの後ろを付いていった。
「ここが、俺の部屋」
そう言って、ドアを開けて中に招き入れてくれた。
「一人部屋だから、気がね無しに話せる」
陽気な声を出して言う、冬哉兄さん。
「相変わらず、小綺麗にしてるんだね」
「小綺麗って……。まぁ、幸矢ならそう言う感想を持つだろうな。ほら、そんな所に立ってないで、座れよ」
冬哉兄さんに進められるまま、椅子に座り兄さんは、ベッドの縁に座る。
「しかし、おばさんから連絡貰ったときは、ビックリしたぞ。まさか、幸矢がこの学校に来るとは、思ってもいなかったからな」
冬哉兄さんが、苦笑混じりで言う。
「うん。私も自分でもなんでここに入れられたか、わかんないもん」
他人事のように答える。
「もう一つ驚いているのは、お前が、男子の制服で校内を歩いてるってことだ」
ん?
いや、今までだって男子の制服だったよ?
「俺、おばさんに“幸矢が女子の制服で入学するから、悪い虫が付かないように見ててくれないかなぁ”って、言われてたんだよ。したら、男子の制服で堂々と歩いてるんだもんな」
そんなこと母さんが言ってたんだ。
「本当言うと、女子の制服も用意してもらってたんだけど、スカートを履き慣れてなかったから、違和感があって、急遽男子の制服を取り寄せたんだよね」
笑いながら答える。
あの時は、自分じゃないように思えたんだ。
「…そっか。俺としては、おじさん達と離れてる間は、女に戻ってもいいと思うが…?」
冬哉兄さんは、私の素性を知ってるから、そう伝えてくるのだろう。
「…そうしたかったんだけど、今までの事でトラウマになってるみたいで、女の自分って違和感がありすぎて……」
「幸矢って、変なところで気にしすぎるんだな。そこがいいところでもあるが…。で、一ヶ月間男として過ごして困ったことあるか?」
「あると言えばあるし、ないと言えばない」
「なんだそれ?」
「一番困るのは声だよ」
怪訝そうな顔をする冬哉兄さん。
「普段の私の声って、アルトじゃん。それより少し低く出すのて、結構疲れるって言うか……」
そう言うと、笑い出す兄さん。
他人事だと思って……。
「わるい……」
そう言いながら、目尻を拭う。
「笑いすぎ」
私は、頬を膨らます。
「ごめん、まあ、確かに地声より低く出すのは大変だよな。そんなに気にすること無いと思うぞ。そのままでも充分だと俺は思うが…」
って、さっきとうって変わって真剣な顔つきで言う。
「そういやさ、もうすぐ水泳が始まるだろ。授業出れないじゃん?どうするんだ?」
まぁ、それは気になる質問?になるのか…。
「それは、解決済みだよ。授業後に居残りで水泳の授業をしてもらうことになってる」
何でもないことのように話した。
「授業後って…。水泳部が使ってるだろうが…」
「その期間だけ、寮の門限を送らせてもらえるように計らってもらってて、水泳部の練習が終わってから、補習授業ってことになってるから、誰にも出くわすこと無いと思う」
「用意周到なことで」
って、冬哉兄さんが、感心してる。
「私が…って言うより、お爺様と父が根回ししてるって言った方がいいのかな。私が女だって知ってる先生も限られてるし……」
苦笑するしかなかった。
「そりゃあ、そうだろうな。戸籍上の性別は、男だしな実際は、女だなんて言えないよな」
難しい顔をする。
そうなんだけど…。
「そうだ、さっきの“アイツ”には、気を付けろよ」
真顔で言う。
?
あぁ…。
「成瀬の事?」
「あぁ、“アイツ”意外と鋭い感覚をもってる。女とバレル前にアイツとは、距離をとった方が俺はいいと思うが…」
確かに。
最近の成瀬は、私に付きっきりだ。
「何かあったら、俺のところに来いよ。いくらでもフォローしてやるから」
冬哉兄さんが、私の頭を両手でワシャワシャと掻き交ぜる。
「髪が乱れるから、やめて…」
私は、冬哉兄さんから距離をとろうと四苦八苦する。
「触り心地がいいんだから仕方ないだろ」
悪戯っ子な顔を見せる。
「もう、兄さん!!」
「仕方ないだろう。お前が、可愛いのがいけないんだよ」
ボソッと聞こえてきた。
可愛いって…なんだ?
「おっ、そろそろ夕飯の時間だな。食堂に行くか?」
兄さんが時計に目を向けてそう言う。
「そうだね」
私は、そう頷いていた。