楽しそうな母
「ねぇ、母さん。何時成瀬君と知り合ったの?」
さっきから疑問に思った事を口にする。
「幸矢が連れ戻された日、祥君が家に訪ねてきたの。話を聞けば、唯華ちゃんの弟だって言ってたわ。その時にね、連絡先の交換したのよ。」
何で唯華ちゃん?
「唯華ちゃんと祥くん、双子なんだって。幸矢と言う友達の名前が同じだったから、二人がお互いに特徴を言い合ってたら、同一人物と分かったって言ってたよ。」
そっか……。
唯華ちゃんの名字は、成瀬だった。
「幸矢。祥くんにメールしたでしょ。意味深な。それが気になって家に来たんだよ。それから、何度も来てくれるようになって、あの日、幸矢が倒れたとある人から連絡もらってどうしていいのか分からなくなって、祥くんに電話したの。そしたら、的確な指示してくれて、尚且つ一緒に来てくれたのよ。私、母親なのに何も出来なくて、情けないわ。」
母が、今にも泣き出しそうな顔で言う。
母がこんなにも心配してたんだと思うと、反省しなくてはならない。
「それより、幸矢。このワンピースに着替えて。」
母の声が少し弾んでる。
服見てそんなに弾めるものなのかと不振に思ってしまう(お洒落に興味ない私だから価値観の違いかな)。
しかし、ワンピースとは……。
てっきり、男装の服を用意されてると思ってたんだけど……。
「祥君がね、幸矢に着て欲しいって自ら選んで持ってきたの。着てあげてね。」
成瀬が選んだ服?
何で、そんなことまでしてくれるんだ?
わからない……。
「幸矢?」
母が不思議そうな顔で私を見てくる。
私は、母の手から服を取って、袖を通した。
「サイズ、ぴったりだね。祥君、センスいいね。」
って、母の方が嬉しそうだ。
「幸矢のボディーラインを浮き立たせてるよね。」
普段着ない服だから余計かもしれないけど……。
それでも、姿見で自分を見て驚いた。
「これが、私?」
白地に向日葵の柄がプリントされたものなのだが、違和感なく着れてることに驚く。
「祥君。よっぽど幸矢の事が好きなのね。」
母は、ニコニコ笑っている。
そんな反応に私は困ってしまう。
「祥君なら、幸矢を大事にしてくれそうね。」
意味深な言葉を言う母。
「冬哉君もいいけど、やっぱり幸矢には祥君の方がお似合いかもね。」
って……。
何の事だろうか?
「幸矢、冬哉君にも祥君にも告白されてるよね。」
母の言葉に目が点になる。
私、話したっけ?
「冬哉君は、お兄ちゃんポジション止まりだろうなぁ。で、祥君だと頼れる男かな。」
母が楽しそうに推測していく。
「私は、どちらでもいいよ。二人とも幸矢を大切にしてくれるだろうし……。女の子として扱ってくれるものね。」
母が言ってる事がいまいち分からずに疑問符が過ぎ去っていく。
「そっか。幸矢はそんな感情は、まだ分からないんだね。女の子に戻ったのがつい最近だし、誰かを好きになるって、その人を思うと心が苦しくなったり、その人の為に何かしてあげたいと思ったりするの。幸矢は、これから感じることだと思う。迷って悩んで結論を出すのだから、幸矢には良い心のリハビリになるんじゃないかな。」
確かに、今の私は前よりも感情を表に出せてると思う。けど、やはり怖いのだ。
人の目が……。
「何押し黙ってるの? 幸矢は、どっちがタイプなのかしら……。」
母は楽し気に言う。
そんなの時だった。
ガラッ……。
ノック音も無しに戸が開いたのだ。




