病院へ
「しょ…祥くん。あの子が…幸矢が、倒れたって…今連絡が……。」
焦ったアイツの母親の声に俺は、一瞬時が止まった。
アイツが倒れた……。
何故?
一体、アイツの身に何が起きたんだ?
家に戻ったになら、そんな事にはなら無い筈だ。
それなのに、倒れたと言うのだ。
何かが可笑しい。
そう思ったら居ても経っても居られなくなり。
耳許では、母親の。
「どうしよう……」
と声がずっと聞こえている。
俺は。
「入院先は聞いてるんですよね?」
確認するように言えば。
「えぇ。」
短い返事が返ってくる。
「なら、今からそちらに伺いますので、出掛ける準備しておいてください。」
「わ…わかったわ。」
その返事を聞いてから電話を切った。
俺は、自分の携帯と貴重品だけを手にして家付きの運転手を呼び、車を出して貰った。
「祥様、どちらへ?」
運転手の言葉に。
「綾小路の家へ向かってくれ。」
運転手にはこれで解る筈。
「唯華様の友人宅ですか?」
間髪を入れず返される。
「そうだ。元々俺の友人だ。諸事情で、伺う事になった。」
嘘は言ってない。
でも、これ以上の事は伝える気もないがな。
「解りました。」
運転手は、怪訝な顔を見せるも車を走らせた。
暫く走らせると、目の前にアパートが見えてきた。
運転手は、アパートの前に車を止めると。
「祥様、着きました。」
と此方を振り返る。
「有り難う。このまま待機しててくれ。」
俺はそう言うとドアを開けて外に出て、部屋まで足早に向かった。
ドアをコンコンコンとノックする。
「は~い。」
電話と違い間延びする返事に驚きはするも。
「祥です。お迎えに参りました。」
と声を掛けるとドアを開けて鞄を手にして出てきた。
「祥くん、ゴメンね。それから有り難う。」
とさっきの声とは変わり不安そうな声で言われる。
少し戸惑いながら。
「俺だって、幸矢さんの事、心配でしたから……。」
そう言葉にするしか出来なかった。
「車を待たせていますので、行きましょう。その鞄は俺が持ちます。」
俺はそう言うと鞄を彼女から受け取った。
彼女は、玄関の鍵を掛ける。
そして、彼女のペースで車まで誘った。
「祥くん、よろしくね。」
不意に言葉を掛けられて。
「はい。」
俺はそう答えるしかなくて、頷いていた。
幸矢の事心配で堪らない筈なのに、虚勢を張ってるのが判る。
車まで難なく案内をし後部座席に乗せる。
俺も反対側から乗り込み、彼女が行き先を告げると運転手は、何も言わずに車を走らせた。
運転手には、臨時ボーナスを俺から渡しておくか……。
何て思いながら、幸矢の安否が気になった。
二時間の車の移動は流石に疲れたが、それでも幸矢の顔を見ないと安心出来ずに気が張った。
病院に着くと直ぐに車から降り、母親の彼女は正面の入り口に小走りに向かって行く。
「運転お疲れさま。今日は、このまま泊まりになるから、そこでゆっくりしてくれ。家には連絡入れておくから。」
俺は、運転手に労いの言葉を掛けてから病院内に入った。
受付の近くまで行けば、母親が受付の人に言い寄っていた(問答していた)。
病室を教えて貰えないのだろうか?
最終的に身分証を提示したら疑いが晴れたのか、病室を教えて貰えた。
やはり、このご時世無闇に人を信じる事など無いんだなと改めて思わされた。




