父さんの後悔
「幸矢、お祖父様を余り怒らせないでくれ。」
父さんが、困った顔で言ってくる。
確かに、お祖父様は御年だし血圧とか心配だろうね。
だけど、私にも譲れないもの在るからね。
「でも、私は女なんのです。なのに何故男の振りをしなければならないのですか?」
分かっている事を改めて問う。
「それは……。」
父さんも敢えて聞かれると困るようで、言葉が出てこない。
「お家の為ですか? それがなければ、私は私で居られた訳ですよね。」
今まで、思っていて口にしなかった事を父さんに八つ当たりのように言う。
「幸矢……。悪い。私には、お祖父様を止める事が出来なかった。幸矢の此れからの事を思えば、止める事が出来たのに……。」
父さんの後悔の渦に私は。
「今更です、父さん。私は、そのお陰で鍛練を付けて貰えたし、精神力も鍛える事も出来た。誰に頼る事も無く、何に対しても出来るようになった。それに学力もそれなりにあるのもそのお陰だと思ってます。」
父さんにお礼の意味でそう口にした。
「幸矢……。」
父さんの何とも言えない顔を見るのは、初めてかもしれない。
「それから、反省室に入れられても、男に戻るつもりはありませんから……。」
私は父さんに笑みを向けてから部屋に入った。




