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再会


オレは、ヤツを連れて駅前のカフェに連れて行くことにした。


店に入ろうとした時。

「ごめん、成瀬君。電話してきてもいいかな?」

後ろに居たヤツが、そう声をかけてきた。

「えっ、ああ、いいよ」

オレは、そう答えて店の中に入って行く。

以外と空いていて、窓側の奥が空いていたので、オレはそこに腰を下ろした。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

店員が聞いてきたから。

「連れが来てから一緒に注文します」

そう伝えれば、お冷やを置いていった。

本の数分して、ヤツがドアベルをならして中に入ってくる。

直ぐにオレに気付き、こちらに向かって来て、向かいの席に腰を下ろした。


しかし、こいつ、本当は女だったんだな。

制服、似合ってるじゃん。

何て思ってたら。

「待たせてごめんね」

と、何時も聞いていた声と違う声(少し高めの)で、言うから戸惑うが。

「否、構わないよ」

オレは、冷静に返した。


「…で、何で、此処に居るんだ?そもそも、あの日以来、人が変わったようになってるんだ?」

オレは、疑問に思ってることを言えば。

「その前に注文しちゃわない?」

彼女(?)がそう言い出した。

「あぁ、そうだな」

オレは、店員を呼び出し。

「オレ、アイスコーヒー」

「私は、アイスミルクティー」

それぞれ注文した。

って言うか、こいつが"私"って言ってるのって、なんだか新鮮だ。

店員が繰り返し注文を聞いて立ち去ると。

「…で、どういう事か、説明して」

オレは、間髪をいれずそう聞き出した。

「あの日、水恐怖症って言ったのは、嘘。私は男じゃないから…。水泳の時だけ私は、図書室で自習してたの。これは、学園長の許可もあるから…。その時に冬哉兄さんに告白されて、でも、男のままでは応えようがないし、ましてや、成瀬君の事も宙に浮かせたままなのに……。これでいいのかって、悩んだんだ」

幸矢は、俯きながら、あの日の事を話してくれる。

だが、気になるのが。

「その前に確認させてくれるか?お前は、女なんだよな」

そう、今目の前に居る幸矢が偽りない姿なのかと。

「女だよ。戸籍上は男になってるけど、生まれた時から女だよ」

感情の無い声で、彼女は告げた。

「それで納得した。高津先輩がお前の事を凄く気にかけていた理由が」

あの人が心配してたのは、こいつが女だと知ってたからなんだな。

「話、戻しても?」

彼女が、促してくる。

「あ、うん」

オレが頷いたときに注文していた品物が届いて、それを一口啜った。彼女も同じように啜る。

「お爺様とお父様に相談しに家に戻ったら、私にそっくりな男の子がいてね。その翌日から、その子が私の代わりに学校に行くようになった。それと同時に私の居場所がなくなった。彼が、私の名前を語る以上、同じ名前ではいられないしね。……で、私の心も壊れかけた」

彼女の目は虚ろっていて、今にも壊れるんじゃないかって、思わされる。

そんな彼女をオレは守りたい。

そう思えた。

「うん。自分が自分でなくなるって言うのかな。綾小路幸矢は、一人しか要らない。だったら、私は、誰なんだろう?自分の存在価値がなくなったんだって思っちゃたらね。心がね死にかけてた」

彼女が、似せ笑いを浮かべて言う。

それを見ていられなくて。

「無理して笑うな。お前の存在価値は、オレが示してやるよ。どれだけ、オレがお前を欲しているかでな」

オレは、彼女を失いたくなくてそう言葉にした。

「えっ……」

彼女は、小さく驚いた声をあげる。

「オレ、あの日以来、お前に近付かなくなってたよ。高津先輩も一度だけ来て、直ぐにわかったみたいだ。それ以降クラスに来ることもなくなった」

オレは、彼女が来なくなってからの事を話した。

「しかし、こうして会えて、よかった。オレ、告白したままもう会うことが出来ないんじゃないかって、思ってたから…」

ポツリと口から本音が漏れた。

「ごめんね。心配かけたよね。今はこっちで穏やかに過ごせてるから、安心して」

彼女が、フワリを笑顔を見せる。

その顔に安堵しながら。

「幸矢。その喋り方が、本来の喋り方なのか?」

そう聞いていた。

「そうだよ。家に居るときは、常に自分の事を殺してきたから。女は捨てろ。って散々言われ続けてきたから、本来の喋り方が出きる相手が冬哉兄さんだけだったんだ。それ以外の所で喋れば、何処かでお弟子さんに見られてるかわからないから、出来なかった。ってのが事実かな」

寂しそうに言う彼女。

家の事情にがんじがらめにされて、身動きとれなかったんだな。

「お前、何時、気を抜くんだよ?そんなんじゃ、息が詰まるだろ

?」

「そうだね。幼少の時からこんな事してたからさ、慣れちゃってたんだね。何処で、誰が見てるかわからない分、感覚が鋭くなっていくんだから、武道にはもってこいだったかな」

何故か、遠い目をして冷めざめとした声で彼女が言う。

そんな彼女に。

「な、幸矢。オレのものになら無いか?」

って、言ってしまった。

オレ自信も驚いたが、彼女ももっと驚いた顔をしてオレを凝視してくる。

オレは、焦りから。

「幸矢。お前は、柔道と剣道、どちらが得意なんだ?」

そんな事を口にしてた。

「どっちもいけるよ。ただ、大会とかに出るのは勘弁して欲しいかな。直ぐにばれて、連れ戻されるだけじゃすまないと思うから」

彼女は、不思議な顔をしながらそう答えた。

「それは、そうかもしれないが……。大会に出るんじゃなくて、家の道場で教えることって出きるか?」

少しだけ興味を持ってくれたみたいで、さらに言葉を告げた。

「家も、幸也の所と同じでさ。道場をやってるわけ。で、師範が足りなくて、夏休みの間だけでも良いから、見てくれないか?」

オレの言葉の追撃に。

「ゴメン。母と約束してるんだ。こっちに居る間は、武道の事を忘れるって」

申し訳なさそうな顔をして、謝ってくる。

「そっか。それじゃあ、無理だな。だけど、お前はこのまま逃げ隠れしたままでいいのか?」

オレは、幸矢に改めて聞いた。

「うーん、どうだろうね。母も病弱だし、かといって簡単に戻れるとは、思えないし……。表舞台に立っても、直ぐにばれちゃうだろうし…」

彼女の返答に。

「だったら、オレの婚約者として、いればいい」

そうオレは、答えていた。

だって、こいつの居場所が、何処にもないと感じさせられたから。

目の前に居るにもかかわらずだ。

「何せ、オレは未だにお前の事が好きなんだ。幸矢が、オレの前から突然居なくなって、焦った。でも、今、こうして出会えたんだ、これも運命だと思う。だから…」

もう一度告白してるみたいで、恥ずかしいが言うしかないと思ったんだ。だが。

「成瀬君の気持ちはありがたいけど、私は、それを受ける資格を持ち合わせていません。今の私は、庶民であり、ただの小娘です。あなたのような名家の人と婚姻を結ぶなんて、とんでもありません」

丁寧に断ってきた。

資格って……。

そんなの必要ないと思うが……。

ここで、挫けるわけにいかない。

「幸矢。返事は急がないよ。これ、オレの携帯番号。何時でも電話してくれればいいから」

オレは、メモを幸矢の前に置く。

「じゃあ」

そう言って、伝票を手にして、席を立った。


本当に、何時でもいいんだ。

何かあったら、オレを頼って欲しい。

そう思って、渡したのに……。










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