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駅前にあるカフェに入った。

ドアベルが可愛い音を鳴らして、来客を告げている。

席に着く前に。

「ゴメン、成瀬くん。電話してきてもいいかな?」

彼の返事も待たずに、店の外に出て電話した。


『幸矢、どうしたの?』

お母さんの心配そうな声に。

「友達と少し話をしてするから、帰るの遅くなる」

明るい声でそう答えた。

『うん、わかったわ。夕飯前には帰ってくるのよ』

お母さんの優しい声が、耳に届く。

「はーい」

私は、そう返事をして電話を切った。


店のドアを開けて"チリン"可愛いドアベルを鳴らして中に入る。

中は、冷房がほどよくきいていて、涼しい。

その中で、成瀬くんは、窓側の人目につきにくい場所に座っていた。

私は、彼の場所に行き向かい側に腰を下ろし。

「待たせてゴメンね」

そう彼に告げた。

「否、構わないよ」

彼は、ニッコリと笑みを浮かべている。目は、笑ってなかったけどね。

「…で、何で此処に居るんだ? そもそも、あの日以来、人が変わったようになってたんだ?」

続けざまに聞いてくる彼。

「その前に、注文しちゃわない?」

だって、さっきから定員さんが自分達を睨んでくるんだもん。怖いよ。

「あっ、ああ。そうだな」

成瀬くんは、罰が悪そうな顔をして定員さんを呼ぶ。

「オレ、アイスコーヒー」

「私は、アイスミルクティー」

それぞれ注文する。

オーダーをとった定員さんは、直ぐ離れていった。


暫の沈黙の後。

「…で、どういう事か説明して」

成瀬くんの怒気を含んだ声が聞こえた。

決意を決めて。

「あの日…水恐怖症って言ったのは、嘘。私は、男じゃないから…。水泳の時だけ、私は図書館での自習してたの。これは、学園長の許可も取ってあるから…。その時に冬哉兄さんに告白されて、でも、男のままでは応えようがないし、ましてや、成瀬くんの事も中に浮かせたままなのに……。これでいいのかって、悩んだんだ」

彼の顔を見て言えなくて、俯いたままで告げる。

「その前に確認させてくれ。お前は、女なんだよな?」

唐突の言葉に顔をあげ。

「女だよ。戸籍上は、男になってるけど、産まれたときから女だよ」

そう口にしてた。

「それで、納得した。高津先輩が、お前の事を偉く気にかけていた理由が」

成瀬くんが、呟いた。

私には、訳がわからなかったが。

「話、戻しても?」

そう彼に声をかける。

「あ、うん」

彼の言葉と同時に注文の品が届いて、一口それを口にし喉を潤すと。

「お祖父様とお父様に相談をしに実家に戻ったら、私にそっくりな男の子が居てね。その翌日から、その子が私の代わりに学校に行くようになった。それと同時に私の居場所もなくなった。彼が、私の名前を語る以上、同じ名前ではいられないしね。…で、私の心も壊れかけた」

「壊れかけたって…」

心配そうな彼に。

「うん。自分が自分じゃないって言うのかな。綾小路幸也は、一人しか要らない。だったら、私は、誰なんだろう? 自分の存在価値が、無くなったんだって思ったらね、心が死にかけてた」

私は、笑って話すが彼は憐れんだ目で私を見てくる。

そんな目で見なくても、と私は、苦笑する。

「無理して笑うなよ。お前の存在価値は、オレが示してやるよ。どれだけオレが、お前を欲してるかでな」

彼が、真顔で言う。

「えっ…」

そんな風に言ってもらえるなんて思わなくて、自分でも驚いてる。

「オレ、あの日以来。お前に近付かなくなってたよ。高津先輩も一度だけ教室に来て、直ぐにお前じゃないことに気付いて、それ以降クラスに来ることもなくなった」

そっか…。

二人とも、私の事を見てたから、直ぐに気が付いたんだ。

「しかし、こうして会えてよかった。オレ、告白したままもう会うことが出来ないんじゃないかって思ってたから…」

彼が、心底ホッとしてるのがわかる。

「ゴメンね。心配かけたよね。今は、こっちで穏やかに過ごせてるから、安心して」

「幸矢。その喋り方が、本来の喋り方なのか?」

彼の質問に。

「そうだよ。家に居る時は、常に自分の事を殺してきたから。女は捨てろって散々言われてきたから、本来の喋り方が出きる相手が、冬哉兄さんだけだったんだ。それ以外のところで喋れば、何処かでお弟子さんに見られてるかわからないから、出来なかった。って言うのが事実かな」

お弟子さんに見つかり、お祖父様に告げ口されたら、罰が与えられてたし。

「お前、何時気を抜くんだよ? そんなんじゃ、息が詰まるだろ?」

オレなら無理だって顔をして言う彼に。

「そうだね。幼少の時からこんな事してたからさ、慣れちゃってたんだよね。何処で、誰が見てるかわからない分、感覚が鋭くなっていくんだから、武道にはもってこいだったかな」

昔の事を思い出しながら告げる。

「なぁ、幸矢。お前、俺のものになら無いか?」

唐突の言葉に驚愕する。

どういう事?

成瀬くんの顔をみる。

「幸矢。お前は、柔道と剣道、どっちが得意なんだ?」

何が言いたいのかわからないけど。

「どっちもいけるよ。ただ、大会とかに出るのは勘弁して欲しいかな。直ぐにばれて、連れ戻されるだけじゃすまないと思うから…」

私がそう言えば。

「それは、そうかもしれないが…。大会に出るんじゃなくて、家の道場で教えることって出きるか?」

成瀬くんが、苦笑いをしながら言う。

えっ、それって…。

「家も、幸矢のところと同じでさ、道場を遣ってるわけ。で、師範が足りてなくて、夏休みの間だけでもいいから、見てくれないか?」

それは、とても嬉しいお誘いだけど。

「ゴメン。母と約束してるんだ。こっちに居る間(見つかるまで)は、武道の事を忘れるって」

約束は、守らないといけないよね。

「そっか。それじゃ無理には誘えないな。だけど、お前はこのまま逃げ隠れしたままでいいのか?」

真顔で聞いてくる。

「う~ん。どうだろうね。母も病弱だし、かといって、簡単に戻れるとも思えないし…。表舞台に立っても、直ぐにばれちゃうだろうし…」

「だったら、オレの婚約者としていればいい」

とんでもない申し出に驚くことしかできなくて。

「何せ、オレはいまだにお前の事が好きなんだ。幸矢が、オレの前から突然居なくなって、焦った。でも、今、こうしてで会えたんだ。これも運命だと思うんだ。だから…」

「成瀬くんの気持ちはありがたいけど、私はそれを受ける資格を持ち合わせていません。今の私は、庶民であり、ただの小娘です。貴方のような名家の人と婚姻を結ぶなんて、とんでもありません」

私は、彼の申し出を断った。

「幸矢。返事は急がないよ。これ、オレの携帯番号。何時でも電話してくれればいいから」

切な気な目をして、メモを差し出してくる彼。

「じゃあ」

そう言って、伝票を持っていってしまった。


残された私は、どうしたらいいのか、考え込んでしまっていた。









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