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暗闇

何時間、その場に滞っていたのだろう。

母さんが、私を呼ぶまで動けなかった。


「幸矢、大丈夫?」

母さんの優しい声が耳を掠めていく。

「母さん。私は、一体誰なんでしょうか?」

思わず口にした言葉。

「幸矢……」

母さんが、心配そうに私を見てくる。

「私は、もう幸矢ではないのです。彼が、私の名前を継ぐことで、この家は安泰です。ですが、私は、何て名乗ればよいのでしょうか?綾小路には、男児が一人生まれただけ。では、私は、この家に居ることさえ、許されないのではないでしょうか?」

その前に、敷居さえ跨いでは、いけないのでは?

そう思わざる終えなくなる。

私の言葉に母さんが、涙を浮かべる。

私の母は、今目の前にいるこの人ただ一人だけ。

でも、彼が私の変わりに学校に行くのであれば、私の存在価値はないに等しい。

なら、私は何処に行けばいいのでしょうか?

私の心の葛藤が伝わったのか、母は。

「幸矢。私とこの家を出ましょ。そして、二人で一緒に何処か遠くで暮らそう。今、ここに居たら、駄目になってしまう。お爺様とお父様の目の届かないところへ…」

母さんが、ギュッと私を抱き締めてくれた。

「幸矢は、私にとって、一番大切な子です」

母さんの言葉にそっと涙した。

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