断章2 夕闇に踊る
「鬼道くん、目立ちすぎではないかね」
「研究資料を提供するかわりに好きにさせてくれるという話でしたが?」
研究用の隠れ家で二人の魔術師は対峙していた。
「もちろんだとも。しかしこちらも資金と人材を提供しているのだ。少しは口出しさせてくれてもいいのでは」
「ええ、あなた方には感謝してます。しかしどうしても確認しておきたかったのですよ。人工魔術師最後の一人を」
芝居がかった大仰な仕草で返答する鬼道。
もう一人の魔術師は不機嫌そうだ。
「見た感じ人工魔術師といってもごく普通ではなかったか。同年代の平均より上といった程度、君達三人のように才気に溢れているワケでもない」
「だからこそですよ。最も平凡な人工魔術師。研究を進めるにはどうして彼が平凡なのか知らなければならなかった」
「まあ、作り出す兵隊が弱くても意味はない。より強力な人工魔術師を作れるというなら仕方ないかもしれんが。今回はこれまでにしておこう。くれぐれも我らの期待を裏切らないように」
「ええ、もちろんです。潮崎師」
そういって青年は口だけを笑みに変える。潮崎と呼ばれた魔術師は、眉をひそめた。ついで溜息をつく。
「素材は置いておく。リンドウに後は任せよう」
「リンドウさんですか」
「アレも中々の術者だ。君の護衛は務まるだろう。人工魔術師は夕闇の会の躍進には欠かせぬ戦力。是非とも形にしてもらいたい」
「ええ、もちろん。ご期待ください」
「それでは夕闇の輝きを」
「夕闇の輝きを」
そう言い放って魔術師は消えた。残るのは鬼道 仙と素材のみ。
「……乗り越えなければならない、彼を。でなければ進めないんだ、僕は。何処にもいけないんだ」
思うのは11年前の己。炎から逃げ惑い糞尿を垂れ流しながら赦しを乞うた無様な自分。それに当てつけるかのように立ち上がり、闘いを選んだ少年。
想うのは2年前の少女。大いなる龍を圧倒した。地を這いずり、敗れた自分を思うと、どうしようもなく悔しかった。
「けりをつける」
強くなる。たとえ全てを踏み台にしても。二度とあんな惨めな思いはしたくない。何かを恐れたくない。
だから……。
「君を使わせてもらうよ」
小首をかしげながら、呼びかける。素材は、その声に恐怖した。
「通り魔だっけ。5人くらい、カッターナイフで夜な夜な子供を切りつけてたって話だけど」
否定するように、素材は首をふる。
「うーん。いい感じのショボさと歪みだ。強いは弱い、弱いは強い。君ならきっと良い感じに仕上がるだろう」
そして炎が素材を燃やす。
轟々と煙りをあげながら。
夜はそうやって、更けていった。