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人工魔術師達の輪舞曲  作者: ミート監督
魔術師達の喜劇
3/72

第2話 追いついた過去

 支部長室をでたところで、バッタリとよく見知った顔に鉢合わせた。


「ヤッホー。こんにちわー。ねえねえ、さっきのかわいい女の子だぁれ?」


 色っぽい、艶のある声である。


「それが聞きたくて待ち伏せしてたのか」


 呆れた顔で、突っ立ってる和服の少女に目をやる。相変わらず、金髪碧眼に和服が似合っていない。


「いやあ、同年代っぽい女の子だからね。重吾が支部長室にあんた、呼ばれてるって言ってるの聞いたから。そんでもって出待ちしようとしたらあの子がでて来たもんだからさ」

「……あの子、高等魔術師だぞ」

「うぇっ、 マジで? てことは、年齢いつわったおばあちゃんだったりするのん? 魔術解いたらシワシワだったりする?」


 顔の横で手を揺らしてる。シワシワーを表現してるらしい。


「失礼すぎんだろ」


 自分も似たこと考えたことは、棚に上げて半目で睨む。


「よーし聞いて驚け見て笑え。嘘、見て笑うのはなし。あの子、俺らと同じ17歳だとよ」

「嘘っ。天才?」

「天才、天才」


 コクコクと頷き返す。


「はぁー。世の中にはいるもんねぇ。これが天才か。自信なくすわぁ」


 高等魔術師になるには、実績血筋&コネが必要だ。なにしろ年三度の魔術協会評議会に出席し、協会運営に関わる立場なのだ。支部にいる人は4人中3名が60歳オーバー。1番若いので支部長の43歳。これでも異例な若さだ。17歳というのは驚愕に値する。


「じゃ、急いでるからこれで。あ、そうだ重吾どこいる?」

「まだ食堂じゃない。電話したらすぐ来るわよ」


 おーうと返事して。携帯をいじる。数度コールして重吾が出た。


「ふぁみ?」


 声からして、口にハムスターのように食事を詰めてるらしい。


「5階支部長室、30秒」


 ピッと切る。これでOK。

 すぐにドドドと音がして、頬を膨らませた光り輝くマッチョマンが登場した。手にはサンドイッチが握られている。


「ふぉっふぉうふぉうほう……んぐ。速攻登場重吾ここにあり!」


 シャキーンと手を斜めに上げてポーズをとってる。


「よーし行くぞ、ついて来い」


 おお? と疑問も持たずについて来る重吾……プラス1名。


「何でついてくんの?」

「うぇっ? この展開でハブ? まさかの幼馴染組で1人だけハブなのん!?」

「いや、仕事だし」

「ええー。やだやだ私も行きたい」

「どこ行くかも分かってないだろ」


 はあ、とため息をつく。理由を話さないと何処までもついて来そうだ。とは言えもう一人は使っても良いと支部長言っていた。だがしかし、正魔術師が1人は欲しい所だ。典膳先輩か竜崎先輩に頼もうと思っていたのだが、しょうがない。獅童高等魔術師に丸投げしよう。

 ある意味最悪な発想である。


「まあ、ついて来ていいけど。仕事に入れてもらえるかは先方しだいだからな」

「先方って、さっきの天才ちゃん?」

「そっ。本部からの仕事だからワガママ効かないぞ」

「んー。ま、何とかなるでしょ」


 何時もながらポジティブだなあ、コイツ。少し尊敬してしまう。

 重吾は、と見るとサンドイッチをぱくついてる。まあ静かでいいか。

  3階宿泊部屋に向かう途中、チラリと少女、御津池 マリーの横顔を盗み見た。

 緩くウェーブがかった金髪を肩口で整えている。軽い性格に似合わず美人タイプの怜悧かつ妖艶な顔だちだ。切れ長な瞳、優雅な眉。ハーフらしく鼻は高い。身長は女性にしては高く目線はこちらの少し下といった程度である。胸が大きくてメリハリのついた体に和服を着ているからか、一見チグハグな印象を受ける。

 ぱっと見、観光客にしか見えない。

 こうして見る分には和服以外105点はつけれる真性の美少女なのだけど。

 何でか知らないが、妙に和服を気に入っており、時々着てくるのだ。個人的には体の線が見える、Tシャツ&ジーパン姿が一番だ。たまに見る分には和服もいいもんだが、いつもなので少し飽きる。

 あの事件の後、難しい立場の自分は此処に赴任することになった支部長に引き取られた。その時マリーと重吾に出会った。

  それ以来の腐れ縁だ。イタズラしては怒られた日々からそれ程時間は流れていない。おそらく生涯この二人に振り回されることになるんだろう。


「よしノックするぞ。いいな」

「いや、しろよ」


 ぬぬぬ、重吾のくせに的確なツッコミだ。いや結構緊張するんだよ。

 トントン、とノックする。


  「どうぞ」と可憐な声が帰って来た。


「失礼します」『入りまーす』


 そして扉を開けると視界をピンクが出迎えた。


「!?」


 何ということでしょう。事務的なはずの宿泊部屋がピンクの壁紙とファンシーなお人形の迎える、女の子の部屋に大変身していたのです。ベッドもなぜか天蓋つきになっている。どこのお嬢様の部屋なんだここは。


「あ、あのう。獅童高等魔術師。この部屋はいったい」

「あら皆木さん。ええ、先程改装が終わったとこなんですよ。可愛いでしょ?」


 エヘヘと笑いながら答える獅童高等魔術師。

 それにかわいいーと答え、寄って行くマリー。空間は一瞬で男子禁制の聖地に変化した。


「じ、重吾。重吾?」


 助けを求めて横を見るといない。ど、どこいった。


「おお、可愛いな。このユルキャラ。いい趣味だ」


 う、裏切り者。あいつ、あの空間に躊躇無く飛び込みやがった。ええい、俺だけアウェイか。 アウェイなのか!?


「し、獅童高等魔術師。兎も角、仕事の話をしましょう」

「? ああっ! すいません。仕事で来たのに私」


 途端に表情が真面目になる。……というより嫌な現実を思い出したかのような顔である。パッチリとした目もどんよりと鉛色に曇っている。なんだろう。まるで現実逃避から引き戻された悲壮な感じだ。


「いえ。それでこの二人は東雲 重吾と御津地 マリー。両方協力してくれる見習い魔術師です。重吾の方は支部長から許可が出ていますが、マリーの方はちょっと……」

「大丈夫です。あくまで誘い出すのが目的ですから。付き添いは見習いの方が、都合がいいと思います」

「……誘い出すっていうことは、やっぱり話は回っているんですね。支部長室で話してくれてもよかったのでは」


 ちょっとした皮肉をチクリとさす。

 その言葉に彼女は真剣な様子で答えた。


「支部長から聞きましたか。そうです。今回犯人はあなたを、人工魔術師を狙っていると本部は考えています」

「え、なになに。どゆこと?」


 横からマリーが突っ込んでくる。重吾は顔に?マークを浮かべたまんまだ。


「……彼女達に伝えてもよろしいですか」

「どうせ首突っ込んでくると思うんでいいですよ」


 はあ、とため息をつく。仕方ないか。


「お二人は彼が人工魔術師である事は知っているのですよね。11年前の事件の事も」

「そりゃ隠されてもないし、本人から聞いて知ってるわよん」

「人工魔術師ってなんだ?」

「重吾……。四、五回話した覚えあるんだが」


 ついに脳まで光になったのか。


「ああ、興味ないんで忘れてた」

「おめー、友人の大切な事くらいは興味持って欲しいんだが」

「いや、親友ってだけで良くないか。人工魔術師だろうがなんだろうが関係が変わるでもないし。ずっと友達だろ」

「……まったく単純でいいよな。お前」

「おぉー。静が照れてるわぁ。可愛い。重吾GJ」

「あ、あのー。話続けていいですか?」


 はい、すいません。どうもこの3人だと脱線しまくるのであった。


「はい、それでは続けます。今回の犯人は既に判明してるんです」

「判明ですか。一体誰が?」

「名前は鬼道 仙。本部所属の正魔術師でした。年齢は21歳。この年での正魔術師というのは非常に優秀です」


 優秀といっても目の前に規格外がいるしなあ。


「2ヶ月前に本部を出奔。その時に同期の見習い魔術師を誘拐しています」

「誘拐ですか。一緒に逃げたわけで無く」

「ええ、本部の術者の調査ですので確かなはずです。優秀な過去視の方ですから。事前に対抗式を使われたのでなければ信用して良いかと。さて、当初は本部でも事件を把握してませんでした。事件が発生した1ヶ月前になって始めて確認できたしだいです」

「はいはい、せんせーい。質問でーす」


 能天気にマリーが質問する。


「どうして本部は捕まえられてないんですか? いっても正魔術師1人だけでしょ。結構楽そうですけど」

「実は本部の方で別の問題が発生しまして……。"夕闇の会"の大物が1人、動きがあるらしいんです。そちらに人員が取られてしまいまして……」

「夕闇の会!?」


  夕闇の会。反魔術協会組織では最も有名なものだ。2年前に帝都で純潔種の龍召喚テロを行ったことは記憶に新しい。


「て、事は本部は動けない。支部のほうでやるしかないのか」

「はい、残念ながら。そして彼等にはもう一つ特筆すべき事があります」


 そこで彼女は一つタメをつくった。意を決した様子で口を開く。


「犯人・鬼道 仙、被害者・佐藤 泰は共に11年前の事件、その被害者。つまり両名ともに人工魔術師です」

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