表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人工魔術師達の輪舞曲  作者: ミート監督
魔術師達の喜劇
1/72

序章 炎の夜



(ああ、夢だ。俺はかつての夢を見ている)


 夜なのに周りは明るかった。皓々と輝く満月と街ではトンと見ない程にキラキラした星空だ。加えて轟々と燃えるキャンプファイアが明かりと楽しみを提供している。子供心にワクワクしたものだった。

 その場所は森の木々に囲まれた草地である。同年代の子供達が30人程も集まっている。男の子もいれば女の子もいた。

 大人もいた。白髪の老人だ。

 おとぎ話に出てくる魔法使いのようなお髭とローブのお爺さんが、何事かをにこやかに語りかけたのだった。もっとも、何故かその意味は自分には分からなかったが。

 そして僕らは2人組になって踊り出した。周りからは奇妙な、しかし楽しげな音楽が何処からともなく流れていた。

 僕の相手は長い髪の女の子だった。目線が高い。年上かもしれないが、この頃の僕は小さかった。加えて女子の方が成長は早い。今考えると相手の方が年下でもおかしくなかった。おしゃまなピンクの、ヒラヒラしたワンピースが愛らしかった。自分といえば着ずっぱりのTシャツ姿である。粗末な姿を恥と感じて、気後れした。

 何気なくぼんやりと少女の顔を見つめれば、ニッコリと笑ってくれた。心の中の暗い影はスルリと消え、うれしくなってこちらも笑顔になったのだった。

 踊りが続く内に、更に明るさが増した。蛍のような光るナニカが周りに湧き出していた。きれいだと思う心といっしょに、得体の知れない光への恐怖も浮かび上がった。違和感が胸中を満たし、なぜ自分がここにいるのか分からなくなる。僕はどうしてこんな場所で踊りをしているのだろう?

 その光は赤くなったり、紫になったり、絶えず色を変化させながら飛び回った。動きをみれば規則性がある。しかし幼い僕はそれの意味に気づかず、ただ幻想的でありながらグロテスクな光に目を囚われていたのだった。


「さあさあ、クライマックスだ。みんな楽しんでおくれ」


 お爺さんがそういうと、音楽は、なおいっそう奇妙さを増した。楽しげなイメージは失せ、何処か嘲笑うかのような旋律に移り変わる。

 何かおかしい、と思いながらもダンスを終えることができない。見れば目の前の女の子も明らかに困惑の表情を浮かべていた。

 急に周囲が暗くなった。月に雲でもかかったのかと始めは考えた。

 誤りであった。

 空を見上げれば、大人の読む新聞で見た、孤島に住まうドラゴンを奇妙に歪めたような怪物がそこにいた。

 思わず悲鳴をあげ、女の子の手を引いてその場から逃れようとした。幸いにもダンスは止まり体を自由に動かせたのだ。

 異変に気づいた他の子供達も各々蜘蛛の子を散らすように逃げようとしている。ただあの優しげなお爺さんだけがニコニコとした表情を崩さない。

 そして空から炎が降って来た。あの歪んだ竜が放ったのだ。

 自分ながら中々勇敢であったと思う。女の子を押し倒し、守ろうとした。おそらく絵本の騎士にでも影響されていたのだろう。

 そして炎に呑まれた。熱い、痛い、喉が渇く。結果的に勇気は無駄だった。炎は僕達二人を分け隔てることなく襲いかかったのだった。

 草地中が地獄へ変わった。子供達の悲鳴と怒号が音楽の代わりに鳴り響く。しかし其処に場違いな穏やかさを持った声が響いた。


「耐えなさい、いい子達。コレはプレゼントだ。これに耐えれば君たちは目覚めるだろう。受け入れなさい、愛しい子達。偉大なる変容はすぐそばだ」


 プレゼント!?

 それを聞いた瞬間怒りが吹き出した。こんなに苦しいのがプレゼント? 女の子を燃やすのが? 一体この老人は何を言っているんだ。

 これまでに感じたことのない激情だった。そして感じた。周囲を飛んでいた蛍のようなナニカが、体に入り込んだことを。異物感が精神を満たす。決定的な部分を無理やり弄られたような、自分を切り刻まれる様な嫌悪感。


(負けてたまるか)


 入って来たナニカに心の中で叫ぶ。


(この体は、心は僕のものだ!!)


 炎に呑まれたまま僕は立ち上がる。本来なら人型の炭のようになっていなければおかしいのに痛みも熱さも他のナニカにとって代わられたようだ。


「おお、素晴らしい! こんなにも早く変容するとは。さあ、おいで私の誇り。新たなる我が子よ。さあ抱きしめてあげよう」


 フラフラと歩きだした揺れる蝋燭のような僕に、老人はよって来た。満面の笑みを浮かべ燃える僕を抱きしめる。

 気付けば魂を焼く炎は失せ、焦げた体は癒えていた。


「いい子だね、いい子だね。ああ、こんなにも嬉しい。君の名前は……」


 そこで言葉が途切れた。その胸を僕の小さな光る手が貫いていたからだ。


「す、素晴らしい。変容は成った。完璧だ。何て可愛い子なんだ!」


 言いながら乱暴に僕の頭を撫でていた。

 そして輝かんばかりの笑顔のまま老人は霧のように消え去った。姿形を残さずに。空を見れば歪んだ竜は消えていた。僕は崩れ落ちる。最後に振り向いて少女を見ようとした。それがこの記憶の最後だ。

 見習い魔術師"皆木 静"。その原点である魔術事件は、こうして終わりを告げたのだった。

こっちを進めるので、エルドラドの方はかなり不定期更新になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ