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《追憶の鈴音》
チリン――、チリン――、
何処からか、鈴の音が鳴り響く。
チリン――、チリン――、
清らかで、透明で、それでいて冷たい鈴の音。
チリン――、チリン――、
頭の中で延々と、煩く響き続けるその音に混じって、俺の左眼に見知らぬ少女の幻影が映り込む。
蹲る俺を見下ろす金色の瞳。
血の気の無い肌に、口の端を大きくつり上げた悪戯な笑み。
近いような、遠いような。
手を伸ばせば触れられそうなのに、何故か右掌は虚しく空を掴むばかり。
チリン――、チリン――、
つかまえてごらん?
それはまるで追いかけっこを楽しむ子供のように、金の瞳の少女はくるりと踵を返し、鈴の音を響かせながらまた何処かへと消えていく。
チリン――――。
一面を真紅に染めた部屋のその中で。
俺は、自分の知っていた世界の半分を失くした。