鏡写し1-6
ひとしきり泣いた私はゆきちゃんとのことを話した。さっき言ったゆきちゃんのことより深く。ゆきちゃんは誰よりも負けず嫌いでひとりでひたすら勉強していたことや、ゆきちゃんがしたいたずらが私のせいになったこととか他愛無いことを。きっと古都野さんからしたら興味もない話だろう。でも、彼女は私の話をきいてくれた。
「佐藤さんはゆきちゃんが大好きなんですね。」
その言葉がうれしかった。私はゆきちゃんに憧れてたしそれに誇らしかった。そして、後ろめたい気持ちがあった。
「古都野さん、私小さい頃は病弱で意思も弱いし学校にもあんまり行ってなかったからゆきちゃんだけが友達だったんです。こんなにすごい子が友達で、いとこなんだってことが自慢だったんです。でもその反面すごく羨んでいたんです。自分にはないものを全部持っていてやりたいことを全部やってたんですもん。ずるい、私だって、ゆきちゃんだけなんてずるいって。」
また、震えてきた。でも、もう黙っているのは無理なんだ。
「古都野さん……、私……、ゆきちゃんなんか居なくなればいいのにって思ってたんです……。愛されて必要とされてるのがずるくて許せなくって……。だって、みんな口を揃えたように、ゆきちゃんゆきちゃんっていうんですよ。ゆきちゃんが居なくなったら私のこと見てくれるんじゃないかって……。それか、みんなゆきちゃんがいればいいんだったら、私なんか要らないんだから死んじゃえばいいのにって……。」
ゆきちゃんのこと大好きだったのも事実でそれと同じように大嫌いだったのも事実だった。一緒に写真とっていくたびに自分とゆきちゃんの顔は似てるのを見るのが嫌だった。
「小学校の三年生の時に私とゆきちゃんでお祭りに行ったんです。本当はお揃いの浴衣を着て行く予定だったんです。お揃いのなんて着たらみんなに褒められるのはゆきちゃんだけなのがわかってたから着ずに行ったんです。出店がいっぱいあって人もたくさんいて。いろいろ見て疲れたし暑いから川原で休もうって川原に行ったのがだめだったんです。前の夜大雨で水も多かったのに。二人で水に足つけて涼んでたんです……。そしたらゆきちゃんの靴が流れちゃって。普段浅いし水もゆっくりだったから今日も大丈夫だって思って私取りに行ったんです。ゆきちゃんは止めたのに。そしたら急に水の深いところがあってそこで足取られちゃって溺れたんです。流されて記憶が途切れる前にゆきちゃんが私に向かって泳いでくるのが見えたんです……。」
声が震える。今でも水の感覚がリアルに思い出せるし苦しい。
「目が覚めたときには病院でした。家族が居て、私を見て泣いていたんです。起きた起きたって喜んでくれて。でも、誰もゆきちゃんのことは言わないんです。私は「ゆきちゃんは?」って聞いても答えないんです……。散々聞き続けたらおじいちゃんが教えてくれたんです。
「ゆきは、ここを助けて川から上がって人を呼びに道路に上がったんだ……。運がよくなかったんだよ……道路に飛び出したときに車に轢かれたんだ……。轢いた運転手がゆきのところに駆け寄ったときに下にいとこが居るんだと、溺れて冷たくなっているから助けて欲しいと何度もいったらしい……。息を引き取るときまでずっと……」って。」
「私のせいでゆきちゃんは死んだんです……。」