3250円後半
なんで急に黙ってんだ?こいつ。いつもならさっきみたいにギャンギャンわめきちらすってのに……。今更おとなしくなられても気持ち悪いだけだから、やめてほしいんだが。
まぁ、いい。俺との約束をすっぽかした理由を聞くとするか。
「なぁ、紅葉。おまえさぁ……何か忘れてね?」
俺が問いかけると、紅葉はぶつぶつと何かを口にし始めたが受話器ごしのため上手く聞き取れなかった。何を言っているのか気になってきたので、紅葉の声に耳をすませていると
「あああぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」
突然叫び声が響いた。何か思い当たることがあったようだ。というかなかったら困る。
「ごめん、今から行くから、ちょっと待ってて。」
……まぁ思い出したならいいんだけどよ。
それから10分後……。
全力で走って来たのだろう。息も絶え絶えで顔は汗がだらだらとたれていた。そんなに急ぐことなくてもいいんだが……まぁ急ごうとしたその気持ちだけは受け取っとこう。
「はぃ!3250円」
……は?
差し出された手からは野口が三人とちょっとの硬貨がこぼれおちた。
うん。3250円ぴったりある。だが、なんでそれを俺に差し出しているんだ?
俺はきょとんとした顔のまま固まった。
そんな俺を見てきょとんと固まる紅葉。
ちょっとの沈黙とかなりの重い空気が漂うなか、俺は一つの結論を見いだした。
この3250円は俺が紅葉に貸した金で、紅葉は俺との約束をすっかり忘れていて、思い当たることがこのことしかなかったのではないかと。
だったとしたら最悪だ。
こいつ、すっぽかしてんじゃなくて約束を覚えてすらねぇんだ……。