「我等アルチザン全力祝福」
東京都新宿区 1-16街 廃屋
周りを高いビルやマンションに囲われているその廃屋は、元が何の建物だったのかさえわからないほど錆びて、崩れて、朽ち果てていた。
なぜこんなゴミのような建物が、大都会のど真ん中にいまだ残っているのか、詳細は不明である。
小さな子どもが見れば廃屋独特の雰囲気に気圧されて、秘密基地にもしたがらないだろう。
大人が見れば、こんな廃屋に用はない、というようにさっさと素通りしていってしまうだろう。
建てられた当初はそんなことはなかったと思うが、朽ちた建物の末路は大概同じ。
人間は新しいものへ、新しいものへと乗り移り、古いものは捨てられていく一方なのだ。
そんな廃屋に当然のように吸い込まれていく集団がひとつ。
人気が無くなりはじめ暗闇に包まれた午前2時、集団は持参したライトをつけてパソコンを起動した。
誰も寄り付かない廃屋から、青白い光がひとつ、ふたつ。なんとも不気味な光景であるが、ノートパソコンを見つめた集団は嬉しそうに笑った。
「ほら、な?」
ノートパソコンを操作していた男・・・大道寺大和は、少年の面影が残る顔に満面の笑みを浮かべて向かいに座る2人に画面を向けた。
「ほんとうだったんですね・・・・!!!」
両の手のひらをパチンとあわせ、無邪気に笑う金髪の美少女、新田クロエ。
「そっかぁ・・・だから何処のネカフェ行っても満員だったのかなぁ。」
納得したように頷いて、ノートパソコンを操作し始める、白髪の上に鮫をモチーフにした大きな帽子を被っていることが印象的な少女、大瀬良はすみ。
「まあ、今のご時世、ネカフェはいつでもどこでも満員じゃね?」
大道寺はポケットの中に手を突っ込むと、数本のヘアピンを取り出し、赤く染められている自信の髪をまとめ始めた。
「すげぇよな。あんだけの罪を犯したってのに6年で出てこれるなんてよぉ。」
「でも、でもでもでも!私、スッごく嬉しいです!!」
興奮を抑えきれないといった感じのクロエは大きな緑色の瞳をより一層輝かせた。
それにつられてか、はすみもノートパソコンから手を離し、クロエと同じように、大道寺に顔を近づけて感情をぶつけた。
「私も!蓮矢様復活、バンザーイっ!!」
はすみは子供のようにその場ではしゃぎ、時折、雪のように冷たく白い両手をあげて、「バンザイ!」と声を上げた。
それに便乗して、クロエもはしゃぐ。
「バンザーイ!!バンザイッ!!」
「おいおい、一応ココ秘密基地。んで、今真夜中。…って、聞いてないよな。」
大和ははしゃぐ二人に向けて、困ったように笑った。
そして、彼も二人に加わって叫んだ。
……蓮矢様、復活おめでとう!!!我等アルチザン、全力祝福!バンザイ!
暗闇に光る青白い廃屋は その夜輝き続け……