「君の帰りを待っていた。」
【2056年4月6日 午前8時25分。新堂蓮矢 刑期6年を終え、釈放!!??】
大きく書かれたそのリンクをクリックすると、「ニット.com」内の掲示板につながった。
完全会員制にも関わらず、その数はおよそ5千万人を誇る日本最大SNS。通称「ニットム」。
管理の行き届いたプロフィール機能に、様々なジャンルのある掲示板にチャット。
独自のアバター機能はおしゃれな高校生にも人気で、サイト内での交友関係を築く機能も充実している。
そして何より、初心者でも簡単に利用でき、自然に溶け込むことができる。それがニットムの魅力だった。
クリックした先は、掲示板の中のスレッドだったようで、水色の背景に整理された内容の、清潔感のあるページだった。
今日の9時ごろ立てられたこのスレッドは、すでにレス1000件を越え、「2スレッド目はこちら」と書かれたリンクが貼ってあった。
「天才ハッカーか。なんかかっこいいな。」
「キタ━━(゜∀゜)━━!!」
「蓮矢さま!蓮矢さま!蓮矢さまの御帰りだ!!!」
「こりゃ、蓮矢狂が黙ってねえな。」
「ニットムのパソコン(ネット犯罪)カテゴリが新堂ネタ一色ww」
「新堂蓮矢 っていうカテゴリ作れそう。」
各々が思うことを一言ずつ書いているような、寄せ書きに見える内容のものばかりだった。
所々に、「蓮矢狂」と呼ばれた新堂蓮矢の狂信者が出没している。
この光景をはじめてみる者にとっては、恐怖のページでしかないであろう。
──── は、アハハ、フハハ・・・
心中で高らかに笑った男は、マウスを操って次々にページを開いていった。
目の前に知人の名前の羅列が見えると思わず手を止めて、また心中で笑った。
──── 蓮矢・・・戻ってきたんだね、蓮矢、蓮矢蓮矢蓮矢!!
千葉の高級マンションの最上階に住む男、笠井要は、心の中で抑えていた笑いを、ついに音にしてしまった。
「アハハッハハッハハハッハ!!!蓮矢ぁ!!!フフハッハハッ!!!」
彼の清潔感のある外見とはかけ離れたその下品な笑い声は、高い天井と怪しげな器具にぶつかって反響した。
暫く笑い続けた彼は、再びマウスを動かし、ページを開いていった。
時々笑いをこらえて体を小さく震わせたが、一通り読み終わると冷静な表情を取り戻し、深呼吸を始めた。
「・・・ふう・・・まさかニットムの掲示板でこんなに大笑いできる日が来るとはねぇ。やっぱり、蓮矢はすごいなぁ。」
笠井は眼鏡を掛けなおすと新しいおもちゃを与えられた子どものように、無邪気な笑顔を浮かべた。
「おかえり。君の帰りを待っていた。」
掲示板の文字を見つめながらそう言うと立ち上がって、部屋の突き当たりに置いてあるたくさんの本棚の中から1冊の小汚いノートを取り出した。
表紙には、「【3N計画書】笠井要・新堂蓮矢」と几帳面な字で大きく書かれている。
表紙をめくり、内容をぱらぱらとめくり始めた笠井は、その場に立ち尽くして熟読していった。
楽しそうに・・・・楽しそうに。