過去ノ記憶
蛍の飛びかう夏の夜。
私は生まれた。
――――オギャー・・・
「生まれた・・・!!僕たちのっ・・・」
しかし、生まれたと同時に、私は死の宣告をうけた。
「……え?先生、どういうことですか」
「娘が、何だって…?」
「…娘さんの心臓は、正常な心臓と比べて血液を送る力が極端に弱いです。今はまだ、明確な治療法が見つかっていません。」
「……じゃぁ、娘はどうなるんですか!?」
「……………」
「先生ぇ!!!」
「……もって、6~7年は生きることができるでしょう…」
「そ、んな……」
「手は尽くします。気をしっかりもってください…」
長生きはできない。
小学校ですら、行けるかどうか分からなかった。
「…ねえ、この子の名前、どうする?」
「僕は…。元気に育ってくれればそれで…」
「…私はね、儚い命だから、『螢』なんてどうかしら、って思ったの」
「螢か…。いいな、その名前」
「ふふっ。意味はね、儚くても、一生懸命に光って、そして、誇らしげに消える…」
「……光って消えてしまうとしても、僕たちにできる限りで螢を守ってやろう」
「えぇ。たくさん愛してあげましょう…」
「あぁ…」
私の名前は螢。
ありがとう、お父さんお母さん…。
「さあ、今日の主役は螢だ!一歳の誕生日、おめでとう!」
「螢、生まれてきてくれてありがとう!はい、プレゼントよ!」
今日は6月8日。そろそろ蛍が飛んでいるだろう。
綺麗だろうな…。
「ぱぱっ、ままっ、あーいがとっ!!」
「そんなっ…。私たちのほうこそ…うぅ」
お母さんが泣いた。それを見てお父さんまで泣き出した。
小さい私はこう聞いたっけ。
「どうちたの?いたいたいの?」
「ううん、螢。嬉しいのよ!こんなに元気に育ってくれたことが!」
「そうだよ、螢。嬉しいから、泣いてるんだ」
「えへへぇ*」
三歳を過ぎたころから、お母さんは毎日あることを私に話してくれた。
「ほーたーる。短い命でも、最後まで一生懸命に光っていてね…」
「ママ?」
「あなたは綺麗よ、とても。とーっても輝いてるわ」
「かがや…?」
「光ってるってこと」
「…ほたる、今光ってるの?」
「ええ、これでもかってくらい!」
「えへへへ」
「ふふっ。あのね螢。あなたの名前はね、蛍が飛んでいる時期に生まれたからなのよ」
「ほたる?それってなに??」
「蛍はね、おしりがピカピカ光っているのよ。とても綺麗なんだから!」
「わあ!!」
「今度見に行こうね」
「うん!」
「それまで……」
お母さんがそのとき何を言ったのかは分からなかった。
ただ、強く私を抱きしめて泣いていた。
時間はあっという間に過ぎ、私は六歳になった。
もうすぐ卒園する。
お母さんの希望で、クラスのない、みんな一緒の保育園に通っていた。
たくさんの年の子がいて、みんな仲良しだった。
「みんな、今日はお父さんお母さんにお手紙を書きます。そのために螢ちゃんと一緒に字の練習をしましょう!」
「はーーーい!!」
その日、私は未来の両親にあてた手紙を書いた。
先生以外、お父さんお母さんも知らない。
と、そこへ一人の女の子が来た。
「ほたるちゃん、何書いてるの?」
「…未来のパパとママへのお手紙だよ」
「みらい」
「うん」
「そっか、そうなんだ。きっと喜んでもらえるよ!!」
「うん!ありがとう!」
あれから六年経ったけど、まだ治療法は見つかっていない。
もうすぐ死んでしまう。
そのことは、幼いながらになんとなく解っていた。
今日は調子がいいけど、最近、倒れることが多かった。
それでも必死に頑張っていた。
けれど、私が思っていたより体は限界だったらしい。
手紙を書き終えた瞬間、私は倒れた。
次に目を覚ましたのは、倒れてから二日後の病院内だった。
ちょうどその時、保育園の先生がいた。
「螢ちゃん!待ってて、いま」
「ねえ、先生」
「な、何?」
「ほたるの手紙、ほたるがいなくなったら、パパとママにあげてね」
「…わかった。でもまだだめよ。まだ螢ちゃんは生きてるじゃない。ここにいるじゃない!」
「……」
「諦めないで。お母さんと、約束したんでしょ?この前嬉しそうに先生に言ってたじゃない」
「…ぁ…」
「ね?だから、もう少し、最後まで…」
「うん、がんばるね先生」
それから一週間後、私は退院し、無事卒園することができた。
そして、あっという間に入学式。
でも弱った体に新しい環境は容赦なかった。
また、倒れてしまったのだ。
ついに私は長期入院をしなければいけなくなった。