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選ばれしもの

ただ一区切りついただけ、永遠の愛を誓う

選ばれしもの



粉雪が舞っている。風は弱かったし積もるほどではない、静かでひっそりとした朝。


彼がどのくらい雪があるか確認しようと、玄関ドアを開けたとき東の方向からぶち猫が子猫をくわえてやって来る。


彼女は、えっちらほっちらと彼のところまで来て、ぽとっと子猫をやさしく玄関先の冷たいタイルの上に置いた。まだ若い母猫だ。



彼は彼女の目を彼女は彼の目を見て、会話をする。言葉はいらない。


「ちょっと、おまえ、どういうつもりだ」


彼は外の空気のように冷たく言い放った。もう5年も前まで猫を飼っていたが、病気で亡くして以来飼っていない。猫を飼うとお金がかかるし、悲しい思いをするのは嫌でしょ。それに家族旅行に行けないのよと妻は言っていて、そのとおりだと、彼も思っている。だから、猫を飼いたいとは強く言えない。


「あのぉ、このお宅はこの辺の猫好きリストにお名前がございまして。どうかこの子をもらってくださいませんか?わたしは見ての通りののらでございます。この寒さに育て上げる自信がございません。どうか、どうかお願いします」


「・・・・・」


彼は迷っているようだ。また猫を飼うチャンスだ、つぎはないかもしれないと。冬の天気は移り変わりが激しい。粉雪はしだいに激しくなって顔にあたると痛い、風は通りの樹々を揺らし始めている。この雪国の冬に、のらがこんなに小さな子を育てるなんて、猫には厳しいだろう、としだいに気の毒に思えてきた。温かいストーブの前で丸まっていさせたい。


「まぁ、とにかく軒下に来い。風が強い」


「ありがとうございます。噂どおり、あなたはやさしい方ですね」


彼の頭には、猫と暮らした楽しい日々が蘇ってきた。ごろぉ、ごろぉ、ごぉろ・・・・・。


まじめに悩み始めた。撫でてみたい!でも・・・・・。


その隙をみて「よろしくお願いします」と言って、彼女は去っていった。


仕方ないな、飼うか・・・妻になんて言おう。


その赤ちゃん猫は雌のぶち猫、ハチワレがきれいな生後2ヵ月を過ぎたほどだろうか。


名前をぽん子にした。



その3日後、彼が天気を見てみようと玄関ドアを開けて、冷たく新鮮な空気を肺に吸い込んでいると、東の方向から子猫をくわえたあの猫がえっちら、ほっちらとやって来て彼の前で止まった。


母猫はくわえていた黒猫をぽとっと、冷たい玄関先のタイルにやさしく置いて。


「この子も、よろしくお願いします」と、言って去っていった。


仕方ないないか・・・一匹飼うのも二匹飼うのも一緒かと、思いその子も飼うことにした。えさ代、トイレ代が2倍か。その他予防注射か。



その3日後。またあの猫が子猫をくわえてやってきた。えっちら、ほっちら。


「この子も、よろしくお願いします」


「おい!ダメだ、うちのやつが怒っている。いくらなんでも3匹はムリだろっ!」


昨日から気温は氷点下近くまで下がっていて、玄関先もタイルが凍っていて、滑る。「わたしはご覧の通りのらです。しかも夫がおりません。この真冬の寒さにこの子を育てることができそうもありません。どうか、どうかよろしくお願いします。この子に温もりをあげてください」


「他をあたれ」


ぽと。


みゃあーみやぁと可愛らしい声で鳴いている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




その3日後・・・また子猫をくわえてやって来た。


「バレンタインデーですね。チョコは差し上げられませんが、代わりにこの子をどうぞ。この子は推しです。躾はちゃんとしてあります。安心してください。もうトイレもできます。ちなみに、ご飯は生タイプでOKです」


ぽと。


「よろしくお願いします」


「おい、おまえ、どこからやって来る?」


彼女は何も言わずに去っていった。




そのまた、3日後。またやって来た。


ぽと。


「この子も、よろしくお願いします」


「おい、もう無理やぞ」


彼女は何も言わずに子猫を置いて去っていった。


こんなにどうする?もらい手を探さないと、猫屋敷になるぞ。




一週間が過ぎた。彼が外の様子を見ようと、玄関ドアを開けて青い空をみあげていたところ、東の方向から何かがやって来る気配がした。


今日は子猫はくわえていない。


「なんのようだ」


彼女は、ぽとっとその場で倒れてしまった。


「おい!どうした?」


尋常な倒れ方でなかったので、彼は驚いて声をかけた。


「・・・・・・・・・・・・・・・わたしも、お願いします」





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