第1話:お姉ちゃんなんだから譲ってよ
はじめまして!本作を見つけていただきありがとうございます。
全10話、一挙公開(完結済み)となりますので、最後まで一気にお読みいただけます。
序盤は少し胸糞展開が続きますが、後半にはしっかり特大の「ざまぁ」と「スカッと」をご用意しております!
主人公・恭子の容赦ない反撃と、身勝手な元家族たちの末路を、どうぞ最後までお楽しみください。
私の名前は恭子、二十八歳。
ごく一般的な事務職のOLだが、今は人生で一番輝かしい時期を迎えている……はずだった。
お相手は同じ職場で知り合った同期の翔。
二年間の交際を経て、あと二ヶ月後には彼と結婚式を挙げる予定だ。
週末ごとの打ち合わせ、ドレスのフィッティング、招待状の宛名書き。
目の回るような忙しさだったけれど、それすらも幸せな時間だった。
そう、あの電話がかかってくるまでは。
「恭子、今すぐ実家に来なさい。大事な話があるの」
母の声は、どこか切羽詰まっていた。
何か事故でもあったのかと、私は慌ててタクシーを飛ばし、実家へと向かった。
実家のリビングのドアを開けた時、最初に感じたのは強烈な違和感だった。
上座に座る父と母。
その向かいには、四歳下の妹、愛梨。
そして、愛梨の隣に小さくなって座っている男――。
「……翔? なんで?」
私は思わず声を上げた。
翔は今日、休日出勤だと言っていたはずだ。
それがなぜ、私の実家に、しかも愛梨の隣に座っているのか。
翔は私と目が合うと、バツが悪そうにサッと視線を逸らした。
「恭子、座りなさい」
父の重々しい声に促され、私は訳も分からず空いているソファに腰を下ろした。
重苦しい沈黙が流れる。
私の頭の中では、悪い予感がぐるぐると渦巻いていた。
結婚式の準備で揉めた? それとも誰かの病気?
だが、口火を切ったのは、場違いなほど明るい声を出した愛梨だった。
「あのね、お姉ちゃん。単刀直入に言うね。私、子供ができちゃった」
えへへ、と愛梨は舌を出して笑った。
……は?
子供?
「え……? そうなの? それは……おめでとう、でいいんだよね?」
あまりの唐突さに、私は間の抜けた返事をしてしまった。
愛梨に結婚を前提とした彼氏がいるなんて話は聞いていない。
むしろ、彼女は昔から「特定の彼氏は作らない主義」を公言し、男遊びが激しいことで有名だった。
まあ、子供ができたことで、この奔放な妹も少しは落ち着くのかもしれない。
そう好意的に解釈しようとした私に、愛梨はとんでもない言葉を続けた。
「ありがとう。でね、そのことでお姉ちゃんにお願いがあるの」
「お願い?」
嫌な予感がする。
昔から愛梨の「お願い」でろくな目にあった試しがない。
私のブランドバッグを勝手に持ち出して汚したり、私の貯金を当てにして旅行を計画したり。
身構える私を、愛梨はキラキラした瞳で見つめ、こう言った。
「翔くんを、私に譲って欲しいの」
……は?
時が止まった気がした。
脳が言葉の意味を理解することを拒否している。
譲る? 翔を? 誰に?
「……ごめん愛梨、ちょっと意味がわからない。翔は私の婚約者よ? 物じゃないんだから、譲るとかそういう話じゃ」
「だーかーらー!」
愛梨は頬を膨らませて、駄々っ子のように私の言葉を遮った。
「お腹の赤ちゃんのパパがいないと困るでしょ? この子のパパは、翔くんなんだから!」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
私はゆっくりと、視線を隣の男に向けた。
翔は相変わらず俯いたままで、膝の上で拳を握りしめている。
「……翔、本当なの?」
震える声で問うと、翔は蚊の鳴くような声で答えた。
「……ごめん」
「ごめんって、何が? いつから?」
「……三ヶ月前、くらいから……相談に乗ってるうちに、その……」
三ヶ月前。
私たちが式場を予約し、本格的に準備を始めた頃だ。
私がドレス選びで浮かれている裏で、この二人は……。
頭に血が上り、視界がチカチカする。
私は立ち上がり、翔の胸倉を掴み上げようとした。
「ちょっと! 恭子、乱暴はやめなさい!」
鋭い声で制したのは、母だった。
見ると、母は眉を吊り上げ、私を睨みつけている。
「乱暴も何も! 母さん、聞いてたでしょ!? 翔は私と結婚するのよ! それを妹と……!」
「事情は分かってる。でもね、できてしまったものは仕方ないでしょう」
母は溜息をつき、諭すような口調で言った。
まるで、私がわがままを言っているかのように。
「愛梨はまだ二十四歳よ。シングルマザーなんて無理に決まってるわ。それに比べて恭子、あなたはしっかりしているし、仕事もある。一人でも大丈夫でしょう?」
「は……?」
「そうだな」
今まで黙っていた父も、腕組みをしたまま頷いた。
「順序は違ってしまったが、血の繋がった孫ができるのはめでたいことだ。翔くんも、責任を取って愛梨と一緒になると言っている」
父が翔に視線を向けると、翔はおずおずと顔を上げた。
「……恭子には悪いと思ってる。でも、愛梨ちゃんには俺がついててあげないと危なっかしいし……子供もできちゃったし、男として責任を取らないと……」
責任?
どの口がそれを言うの?
婚約者を裏切っておいて、何が男の責任よ。
「ちょっと待ってよ……みんなおかしいよ。狂ってる。私たちの結婚式、あと二ヶ月なのよ? 会社や友人にも招待状を送ったのよ? それを全部キャンセルして、私が身を引けって言うの?」
私が訴えても、家族の誰にも響いていないようだった。
愛梨に至っては、「お姉ちゃんってば、また細かいこと気にしてる」とでも言いたげな顔でクスクス笑っている。
「もう、お姉ちゃん。世間体なんてどうでもいいじゃん。私が幸せになれるかどうかの瀬戸際なんだよ? お姉ちゃんなんだから、我慢してよ」
――お姉ちゃんなんだから。
その言葉を聞いた瞬間、私の中で張り詰めていた「何か」が、プツンと切れる音がした。
子供の頃から、ずっとそうだった。
おやつもおもちゃも、服も、進路さえも。
『お姉ちゃんだから我慢しなさい』
『愛梨に譲ってあげなさい』
そう言われて、私はいつも飲み込んできた。
私が我慢すれば、家族は丸く収まるから。
でも、これは違う。
人形を譲るのとは訳が違う。
人の尊厳を踏みにじり、人生を台無しにする行為だ。
それを、この人たちは「家族の絆」だとか「姉の務め」だとかいう言葉で、美談にしようとしている。
……ああ、そうか。
こいつら、話が通じないんだ。
私の心から、翔への愛情も、家族への情も、急速に温度を失っていった。
怒りを通り越して、冷たい氷のような感情だけが残る。
「……わかったわ」
私が静かに呟くと、愛梨がパッと顔を輝かせた。
「えっ! 本当? ありがとうお姉ちゃん! やっぱりお姉ちゃんは優しいね!」
「そうよ恭子、それでこそ自慢の娘だわ」
母もホッとしたように胸を撫で下ろしている。
翔だけが、私の冷え切った視線に気づいたのか、びくりと肩を震わせていた。
「譲るわよ、こんな男。熨斗をつけてあげる」
私はカバンからスマホを取り出し、画面をタップした。
「ただし――タダで済むとは思わないでね」
私はニッコリと笑った。
それはきっと、今まで家族に見せたことのない、一番冷酷な笑顔だったと思う。
第1話をお読みいただきありがとうございます!
身勝手すぎる妹と、あっさり裏切った婚約者、そして毒親たち……。
しかし、恭子はここから一切容赦しません!
次回、きっちり慰謝料を突きつけて見事な「絶縁」を果たしますので、ぜひそのまま第2話へお進みください!
※本作は全10話完結済みです。一気読み推奨!
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