運が良かっただけ
第8話
それからしばらく、
アレンは一人で魔物を倒すようになっていた。
もちろん、隠れてだ。
畑の帰り。
薪拾いの途中。
村の外れ。
出会うのは、
犬くらいの大きさの魔物だけ。
角もない。
魔法も使わない。
速いけど、強くはない。
「……まただ」
草が揺れ、魔物が出る。
アレンは桑を握り、
静かに動いた。
(……いける)
動きが見える。
速さも分かる。
一撃。
二撃。
倒れる。
「……ふぅ」
終わるたびに、
体が少し軽くなる。
理由は分からない。
でも――
(大きいのが出たら、逃げる)
それだけは決めていた。
だから、まだ生きている。
ただそれだけだ。
運がよかっただけ。
魔物は倒したら、
畦の横に埋める。
誰にも言わない。
言ったら怒られる。
その日の昼、
村が少しだけ騒がしくなった。
「ハンターが来たぞ」
村の入口に、
見知らぬ大人たちが立っていた。
剣。
弓。
軽い鎧。
村の男たちとは、
明らかに違う。
「盗賊退治の途中だ」
一人が村長にそう言った。
村から四日歩いた場所に
隠れ家があるらしい。
盗賊。
商人や村を襲う事もある。
アレンは、少し離れた場所から
その様子を見ていた。
ハンターたちは、
強そうだった。
動きが無駄じゃない。
目つきも、村の人と違う。
父が前に出て、話をしている。
元ハンター同士、
短い言葉だけで通じている感じだった。
「今日は泊まる」
「飯は出す」
話はすぐに決まった。
夕方、
ハンターたちが武器の手入れをしているのを、
アレンは遠くから見ていた。
本物だ。
遊びじゃない。
自分がやっていることとは、
同じで、
全然違う。
(……運がよかっただけ)
そう思った。
犬くらいの魔物しか出なかった。
見つからなかった。
怒られなかった。
全部、運だ。
その夜、
布団に入っても、
眠れなかった。
ハンターたちは、
盗賊と戦いに行く。
自分は、
畑の帰りに魔物を倒しただけ。
同じじゃない。
アレンは、
桑を持つ手を、少しだけ握った。




