片鱗
第21話
朝の点呼が終わった直後だった。
「アレンだけ、別行動ね」
リーナが、いつもの軽い調子で言った。
一瞬、意味が分からなかった。
「え?」
「俺らは?」
「君たち九人は、別の先生が見るから」
「安心していいよ」
安心どころじゃない。
「で、アレンは私と二人」
その言葉で、周囲が一斉にざわついた。
「え、ずるくね?」
「二人で森って……」
性格には難があるがザンに引けを取らないくらいの美少女なのだ。
完全に誤解されている。
「……いや、それ」
アレンは、あからさまに嫌な顔をした。
「面倒なやつだ、これ」
リーナは楽しそうに笑う。
「分かってるじゃん」
他の九人は、別の先生に連れて行かれた。
振り返ると男たちが凄い顔になっていた。
(やめろ)
森に入ると、空気が変わった。
二人だけ。
足音も、気配も少ない。
「ねぇアレン」
リーナが、歩きながら言う。
「二人で行動できるのって、結構すごいことなんだよ?」
「王都だったら皆発狂ものよ」
「……そうですか」
「信じてないわね」
それは、そうだ。
は〜と深いため息をつく。
「それで何をさせたいんですか?」
アレンが聞くと、
リーナは少しだけ視線を前に向けた。
「君の力、ちゃんと見たいから」
足が止まりそうになる。
「非常勤だしさ」
「この野外訓練が終わったら、学校を去る予定なの」
あまりにも、さらっと言う
「誰にも言わないって、約束するから」
アレンは、少し考えた。
リーナはまともじゃない。同年代くらいで講師などありえない。
実力者には隠しきれてないと分かったから良しとしよう。
次はもっとうまく隠そうと心から思った。
「……は〜分かりました」
「ありがと」
仕方なく、森を進む。
(絶対、ろくなことにならない)
そう思った瞬間だった。
「……来るね」
リーナが、楽しそうに言う。
ほぼ同時に、
森のあちこちから、気配が立ち上がった。
一匹。
二匹。
三――
(八)
完全に、示し合わせたように複数だ。
「……多いですね」
「うん、多いねー」
リーナは、まったく動かない。
「生徒には、絶対やらせない数だね」
「教師なら、余裕だけど」
つまり――
普通なら、笛を吹いて助けを呼ぶ。教師1人なら問題ないが安全マージンをとるために助けを呼ぶ。
それが正解だ。
生徒に何かあったら、終わりだから。
リーナは、腰に下げた笛に触れない。
ただ、にこにこしている。
(……やっぱりか)
アレンは、ため息をついた。
「はぁ……」
そして、前に出た。
魔物の方へ、歩く。
逃げない。
構えない。
集中すると、
世界が、少しだけ変わる。
肩。
脚。
背中。
筋肉の動きが、
次の動きを教えてくる。
(跳ぶ)
(右)
(遅れる)
魔物たちは、
なぜか真っ直ぐ来てるよに見える。
アレンに自ら斬られに来ているように見えた。
剣を振る。
一歩。
半歩。
体をずらす。
斬る。
また斬る。
音は少ない。
無駄がない。
八匹が、次々に倒れていく。
最後の一匹が崩れ落ちた時、
アレンは剣を下ろした。一瞬で終わった。
「……終わりです」
振り向く。
リーナが、笑っていた。
楽しそうに。
心底、面白そうに。
「いいねぇ」
アレンは、深く息を吐いた。
「……もう、いいですか」
「うん」
「じゃ、私ここで」
あっさりだった。
「勝手に帰ってねー」
そう言って、
本当に森の奥へ消えていく。
取り残されたアレンは、
もう一度、ため息をついた。
「……はぁ」
剣を収め、
来た道を戻る。
野外訓練は続いている。
アレンは、静かに歩き出した。
まるで何もなかったように。




