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見える子ども

第2話



この世界には、魔物がいる。

それは村では当たり前の話だった。

森の奥。

山の向こう。

畑から少し離れただけの場所。

だから柵があり、

大人たちは武器を持ち、

夜になると見張りが立つ。

アレンは、それを見て育った。

そしてアレンは、目がよかった。

遠くの森の影。

草が揺れる向き。

人の動きの、ほんの少しの違い。

理由は分からないけれど、

よく見えてしまう。

その日も、最初に気づいたのはアレンだった。

昼前。

畑の近く。

大人たちが話しながら作業している中で、

森の方が――少しだけ、おかしかった。

(……あ)

草が倒れる。

でも風は吹いていない。

影が動く。

でも鳥は飛ばない。

アレンは、母の服をぎゅっと掴んだ。

次の瞬間だった。

「魔物だ!!」

誰かの叫び声。

村が一気に騒がしくなる。

「武器を持て!」

「子供を下げろ!」

母がアレンを抱き寄せる。

でもアレンは、森から目を離さなかった。

出てきた。

黒い体。

犬に角がある

低い姿勢。

牙が見えた。

魔物は三体。

弓が鳴る。

一本、外れる。

一本、当たる。

魔物は止まらない。

「来るぞ!」

大人たちが前に出た。

アレンは、その中の一人を見ていた。

走り出す足。

少しだけ、もつれた。

次の瞬間、魔物が跳んだ。

「うわっ!」

男が倒れる。

土が舞う。

別の男が剣を振る。

ガキン、と音がして、剣が弾かれた。

「くそっ!」

噛みつかれる。

悲鳴が上がる。

アレンは、その場から動けなかった。

怖い。

でも――

目を離せなかった。

魔物の動き。

大人の動き。

全部、はっきり見える。

「囲め!」

声が響き、

ようやく大人たちが集まる。

槍が刺さる。

魔物が倒れる。

最後の一体が逃げようとして、

背中に槍が当たった。

倒れる。

静かになる。

荒い息の音。

血の匂い。

アレンは、その場に立ったままだった。

母が、強く抱きしめる。

「……大丈夫? 怖かったね」

「……うん」

それだけ答えた。

家に戻る途中、

怪我をした大人が運ばれていくのが見えた。

血が、布に滲んでいる。

アレンは、それをじっと見ていた。

夜、布団に入っても、

昼の光景が頭に残っていた。

魔物の牙。

跳ぶ瞬間。

倒れる音。

目を閉じても、

まだ見える気がした。

アレンは、布団の中で体を丸める。

少しだけ、怖かった。

でも――

すごかった。

それが、正直な気持ちだった。

目がいいと、

怖いものも、全部見える。

だからアレンは、

しばらく目を閉じないまま、

そのまま眠ってしまった。



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