表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

動けるのは1人だけ

第19話



最初に異変があったのは、音だった。

ガサッ。

乾いた草が踏まれる、軽い音。

アレンはすぐに足を止めた。

「……来る」

声は小さかった。

でも、その一言で十分だった。

次の瞬間――

森の奥から、二つの影が飛び出してきた。

「う、うわっ……!」

誰かが悲鳴を上げる。

犬に似た魔物。

最低ランク。

だが、牙は鋭く、動きも速い。

二匹。

それを見た瞬間、

アレン以外の班員の身体が、ぴたりと止まった。

剣を持っているのに、かまえない。

槍を構えているのに、足が出ない。

弓を持つ手が、震えている。

(……硬直)

想定通りだった。

「聞いて!」

アレンは、はっきり声を出した。

「盾持ち、前に!」

「剣と槍、盾の後ろ!」

「弓は最後尾、絶対前に出ない!」

一瞬の沈黙。

「は、はいっ!」

誰かが反射的に動いた。

それでいい。

盾を持つ生徒が前に出る。

震えているが、立った。

魔物が突っ込んでくる。

ガンッ!

盾にぶつかり、弾かれる。

その一瞬で、アレンは続けた。

「剣、振らなくていい!」

「当てなくていいから、追い払う動きだけ!」

剣が、空を切る。

当たらない。

でも、魔物は一瞬ひるんだ。

「槍は突くな!」

「突くふりで、距離を保て!」

槍先が、牽制になる。

後ろから、弓が放たれた。

ヒュッ。

――外れた。

もう一本。

ヒュッ。

また外れる。

「大丈夫!」

アレンは叫んだ。

「当たらなくていい!」

「動きを止めてるだけでいい!」

声をかけるたびに、

班の動きが少しずつ戻ってくる。

魔物は二匹。

だが、連携はしていない。

一匹が盾に噛みつこうとした瞬間、

アレンは一歩前に出た。

(今)

剣を振る。

狙いは胴じゃない。

脚。

ザクッ。

浅いが、確実に動きが鈍る。

「今!」

「同時に!」

槍が突き出され、

もう一匹が後退する。

弓が、近距離から放たれた。

今度は――当たった。

キーッ、と甲高い声。

数秒後、

二匹とも、地面に倒れていた。


皆息が荒い。

誰も、すぐには動けない。

「……怖かった」

誰かが震える声で聞いた。

「皆ケガはない?」

アレンは聞いた。

沈黙。

そして――

一斉に、膝をつく音。

「はぁ……」

「死ぬかと思った……」座り込んだ誰かが言った。

最後尾から、足音が近づいてきた。

「へぇ……」

間延びした声。

リーナだった。

魔物の死体を一瞥し、

次にアレンを見る。

「君、魔物討伐の経験ある?」

視線が集まる。

アレンは、少しだけ考えてから答えた。

「……村には、よく出ました」

「ふーん」

「父が、少しの期間ハンターをしてたので」

「やり方を、見てただけです」

嘘ではない。

全部は言っていないだけだ。

リーナは、少しだけ口角を上げた。

「なるほどね」

それ以上、何も言わなかった。

「じゃ、続き行こっか」

「死体はそのままでいいよ」

相変わらず、やる気がない。

でも――

最後尾に戻る足取りは、軽かった。

班員たちは、まだ少し震えながらも立ち上がる。

「……なあ」

盾持ちの1人が小声で言う。

「さっきの、助かった」

「当たり前のことしただけ」

アレンは、そう返した。

また歩き出す。

森は、何もなかったように静かだ。

(……二匹だけ)

最低ランク。

だから、終わった。

でも――

油断は、できない。

アレンは、前も後ろも、

そして最後尾の先生も、

全部を視界に入れながら歩き続けた。

森の訓練は、

まだ始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ