最低の森
第17話
森を抜けた先で、全員が足を止めた。
「……広っ」
思わず、誰かが声を漏らす。
そこには、想像していたよりもずっと大きな広場が広がっていた。
平らに整えられた地面。
その周囲に、ずらりと並ぶテント。
二百人以上が野営しても、まだ余裕がある。
森の奥に、こんな場所があるとは思わなかった。
(……狩場だな)
アレンはそう思った。
人の手が入っている。
木は切られ、地面は踏み固められている。
偶然できた空き地じゃない。
全班が広場に集められ、教官が前に出た。
「ここが、今回の訓練地だ」
声は大きいが、無駄がない。
「まず、魔物について改めて説明する」
ざわつきが、一瞬で静まる。
「魔物には、ランクがある」
教官は地面に棒で線を引き、六つの印を描いた。
「最低から最高まで、六段階」
「この森にいるのは――最低ランクのみだ」
少し、空気が緩む。
だが、教官はすぐ続けた。
「だが、油断すれば死ぬ」
その一言で、全員が引き締まった。
「最低ランクでも、牙は牙だ」
「爪は爪だ」
「転べば、噛まれる」
誰も反論しない。
村出身者なら、よく知っている話だ。
「単独行動は禁止」
「必ず班で動け」
説明は続く。
「今回の訓練内容は三つ」
指を立てる。
「薬草の採取」
「森で食べられるものの探索」
「そして、森での移動に慣れること」
戦闘は目的じゃない。
だが、危険は常にある。
「各班には、必ず教官がつく」
その言葉に、少しだけ安堵の息が漏れる。
「だが、守るためについていくわけじゃない」
「見ているだけだ」
つまり、
失敗は、失敗として扱われる。
アレンは、自分の班を見た。
十人。
知った顔も、知らない顔もいる。
教官が最後に言った。
「覚えておけ」
「ここは、安全な森じゃない」
「ただ――生きて戻れる森だ」
その言葉で、全員が理解した。
ここは、
“死なないための森”。
だが、
“油断した者が最初に消える森”でもある。
班ごとに分かれ、準備が始まる。
荷を背負い、道具を確認する。
アレンは、森の奥を見た。
最低ランクの森。
最低ランクの魔物。
それでも――
間違えれば、死ぬ。
その現実だけは、
村育ちのアレンには、はっきり分かっていた。




