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最低の魔物

第16話



森に入った瞬間、空気が変わった。

街の匂いが、背中から消える。

代わりに、湿った土と葉の匂いが鼻についた。

「……暗いな」

誰かが呟く。

太陽は出ているのに、森の中は薄暗い。

枝と葉が光を遮り、視界は一気に狭くなる。

(懐かしい)

アレンは、そう思った。

村の近くの森と、よく似ている。

ただし――

広さが、まるで違う。

二年生は、二十人ずつの隊列に分けられていた。

前後に教官。

中央に生徒。

「ここからが訓練だ」

先頭の教官が、立ち止まって言う。

「今日は戦わない。

 目的は三つ」

指を立てる。

「一つ、生きて戻ること」

「二つ、周囲を見ること」

「三つ、勝手に動かないこと」

それだけだった。

「簡単そうだな」と、誰かが言った。

教官は、ちらりと視線を向ける。

「簡単か」

空気が、一気に締まった。

進行が再開される。

足元は土。

時々、根が出ている。

アレンは、自然と歩調を落とした。

前の生徒との距離。

横の木の間隔。

後ろの足音。

全部、目に入る。

(……右、風が変)

葉が揺れる向きが、一瞬ずれた。

アレンは、何も言わない。

言う必要がない。

次の瞬間――

前方で、誰かが転んだ。

「うわっ!」

派手な音。

列が止まる。

「動くな!」

教官の声が飛ぶ。

転んだ生徒は、慌てて立ち上がろうとした。

その瞬間。

ガサッ。

草むらが揺れた。

「止まれ!」

教官が叫ぶ。

遅かった。

灰色の影が、飛び出してきた。

犬に似た姿。

だが、牙が異様に長い。

「魔獣だ!」

悲鳴が上がる。

教官が一歩前に出る。

剣が閃き、影が地面に叩きつけられた。

一瞬で終わった。

「……見たか」

教官が言う。

「今のが、最下級の魔獣だ」

誰も、声を出せない。

「転んだ理由は?」

転んだ生徒が、震える声で答える。

「……根に、足を取られました」

教官は頷いた。

「正解だ。

 森では、それだけで死ぬ」

視線が、全体に向けられる。

「だから言った。

 戦わない訓練だ」

アレンは、倒れた魔獣を見た。

傷の位置。

血の流れ。

(……三歩遅れてたら、噛まれてた)

進行が再開される。

誰も、さっきのような軽口は叩かない。

足取りが、明らかに慎重になる。

ロイが、小声で言った。

「なあ……」

「森って、こんなだったか?」

「こんなだよ」

アレンは、短く答えた。

村の森も、同じだ。

油断した瞬間に、終わる。

夕方、野営地に到着した。



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