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無口な子ども

序章


1話


アレンは、村で一番、大人しい子供だった。

泣きわめくこともない。

駄々をこねることもない。

呼ばれれば返事をし、言われれば従う。

それだけだ。

だから村の大人たちは、彼をほとんど気にしなかった。

「手のかからない子だな」

「楽でいい」

その評価で終わる。

村はどこにでもある小さな農村だ。

畑があり、井戸があり、納屋がある。

朝になれば大人は働き、子供は外で遊ぶ。

アレンも外には出る。

ただし、遊ぶためではない。

同い年の子供たちが木の枝を振り回している横で、

アレンは少し離れた場所に座っていた。

見ているのは、遊びではなかった。

畑に出る人数。

井戸を使う順番。

大人たちが集まっ話してる。

それを、ぼんやりと眺めていた。

「アレン、混ざらないの?」

母が声をかける。

「……大丈夫だよ」

短い返事。

母は首を傾げるが、深くは考えない。

アレンは、こういう時に何を言えばいいかを知っていた。

余計なことを言わなければ、誰も困らない。

ある日、村で小さな集まりがあった。

理由は大したことじゃない。

畑の出来が、少し悪い。

それだけだ。

村長が前に立ち、いつもの調子で話す。

「今年は南の畑が弱い」

「だが問題ない。備蓄もある」

大人たちは頷いたり、首を傾げたりする。

反対意見は出ない。

アレンは、その様子を母の後ろから見ていた。

村長の声は強い。

迷っている声ではない。

(もう、決まってる)

誰がどう思っているかは関係ない。

決まった話を聞く集まりだ。

集会はすぐに終わった。

帰り道、母がため息をついた。

家に戻ると、母が「大丈夫かね」つぶやいた。父が畑道具を片付けながら言った。

「まあ、なるようになるさ」

その言葉を、アレンは知っていた。

「今は決めない」

という意味だ。

村では何かがはっきり決まることは少ない。

決めないまま時間が過ぎ、

後になって「仕方なかった」と言う。

それが、大人のやり方だ。

アレンはそれを、ずっと前から知っていた。

夜、布団に入って天井を見る。

木の板の隙間。

小さな染み。

この村で起きることは、

たぶん、これからも大きくは変わらない。

誰かが決め、

誰かが従い、

誰かが困り、

最後に「仕方ない」で終わる。

アレンは、まだ子供だ。

何も変えられない。

――今は。

目を閉じながら、アレンは考える。

もし、自分が決める側になったら。

その時も、同じ言葉を使うのだろうか。

「仕方ない」と。

その答えは、まだ分からない。

ただ一つだけ、確かなことがあった。

アレンは、

何も言わないまま、

全部を覚えてしまう子供だった。

そしてそれは、

この世界では一番、厄介な性質だった。

これが



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