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09 奈央と店長 3

「伊藤さん!」



放課後、バイトに出勤するべく駅へと歩いていると、後ろから声をかけられた。

聞き覚えのある声だ。

嫌そうな顔してるんだろうな私、そう思いながらなんとか表情を作る。



「何?」

「なんでメッセージ返してくれないの?」

「だから、断ったよね。お付き合いは出来ませんって」

「お試しでいいから、って言ったじゃん。知りもしないで断るの良くないって!」



ねっ、頼むからさ!と拝むように両手を合わせてくる彼にげんなりする。

高校の同級生の男の子、それだけの関係。

初めてメッセージが届くようになってから既に半年が経つ。

どこでどう私の連絡先を入手したのかも不明。

多分、おせっかいなクラスメイトの余計なお世話なんだろう。

付き合って欲しいと言われて一度きっぱり断ったはずなのだが、粘り強いというか、諦めが悪いというか。



「……悪いけどこれからバイトだから」



表情を作る気力もなくなって、背中を向けて歩き出そうとする。

「ちょっと待ってよ!」とガシッと手首を掴まれた。

バスケ部だっけ…?力強いし、背高いし。



「いった……」



思わず顔をしかめて声が出る。が、それに被せるように「いででででっ」と彼の声が響き渡った。



「女の子に暴力しちゃだめでしょ」

「店長…!?」



私の手首を掴む腕を、さらにがっしり押さえる店長。

見た目より力が入っているのか、痛い痛いと大騒ぎだった。



「お疲れ、コレ彼氏?他人?」

「他人です。」

「ははっ、バッサリ。だってよ。」



挑発するように笑う店長に、彼は顔を真っ赤にする。

無理矢理腕を振り解くと逃げるように走り去っていった。



「…ありがとうございます…」

「同じ高校の子も結構見てたし、もう声掛けられることもないでしょ。腕大丈夫?」

「はい」



私の返答に、店長は満足そうに笑う。

こうして顔を合わせるのはなんだか久しぶりだった。

土日はバイト無かったし、金曜日は……一方的に見てただけだし。

もちろん店長は、そんなこと知らない。



「そう言えばインフルエンザは大丈夫だった?」

「あっ、はい!ご心配をおかけしました」

「いえいえ〜。金曜日は俺もお休みもらっててごめんね。問題なかった?」

「特には……いつものおばさまたちが残念がってたくらいで」



そんな雑談をしながらなんとなく並んで歩く。

すぐ側のコインパーキングまで来ると



「これからルーチェ行くんでしょ。俺も行くから乗ってきな」



当たり前のように言われて、今日も流されてしまった。

助手席に見慣れない観光地の紙袋が載っている。



「ああごめん。どかすわ」

「旅行ですか?」

「いや、金曜日に用事で地元に帰っててさ。店にも土産買ってあるから行ったら食べて」



ありがとうございます、と答えながら、ちらりと紙袋を盗み見る。

雪の多い地域だな、と思ってまたピースがひとつ嵌る感覚になんとなく落ち込む。



「店長はなんで駅前に?車なのに…」

「あー……伊藤さんだな〜バイト行くなら乗ってくかな〜って思いながら信号待ちしてたら絡まれてたから思わず停めて声かけちゃった」

「…助かりました」

「さっきのが吉川さんの言ってた、伊藤さんの“彼氏未満”?」

「……何回も断ってるんですけど、しつこくて」

「次声かけられたら、駅前で会った金髪の怖そうなおにーさんが彼氏ですって言っときな」



言いながら、店長は「いや、でもこんなおっさんじゃキモい?」と自ら訂正していた。

いつもノリノリで軽いので、こういうのはちょっと可愛い。



「まぁあとはちょっと、可愛くて」

「はい?」

「制服にマフラーしてる姿がちょっと似てたんだよね。思わず目が追ってたら、伊藤さんだった」



誰に、とは、言わないけれど。

なんとなく、察してしまう。



「好きなんですね。…高校時代の彼女さん」



ぽろっと、漏れた言葉だった。

私の感想なのか、私の記憶の中の紗枝さんが言わせたのか。

店長はちょっと驚いたようにこちらを見たあと、ゆっくりと目を細める。

遠くて、愛おしいものを見ているみたいだった。



「……うん、大好きだったよ、本当に。多分ずーっと、好きなんだろうね」



重いかな?とすぐに表情を変えてケラケラ笑う店長に、何も言えなくなる。

目の裏側が熱い。

地雷もいいところだ、何やってんだ私。


知らんぷりしてこの話題を続けるのが苦しくなったのは、結局私の方で。



「ごめん、なさい…。私、和泉さんから聞いちゃったんです…その…彼女さんのこと」

「ああ……別に隠してるわけじゃないしね。変な空気になるから、わざわざ話題にしたりはしないけどさ」



泣かなくていいよ、と運転しながら左手でワシャワシャと頭を撫でられる。



「伊藤さんは優しいね」



ああダメだ。


どうして泣いてるのか、私が泣いてるのか、紗枝さんが泣いてるのか分からない。

いっそのこと、全部紗枝さんに譲れたら楽なのに。

知っているだけの私は、何も出来ない。

胸の奥がざわざわする、ずきずきする。

これは誰の気持ちで、誰の感覚なんだろう。



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