06 奈央と店長 2
なんとかバイトを終え、ユニフォームから私服に着替える。
お疲れ様でしたと店を出たとしたところで「ちょっと待って」と追いかけてきた店長に呼び止められた。
「送ってく」
「え? いや…大丈夫ですよ?」
さすがに休憩室明けは酷い顔してたけど。
仕事してる方が気が紛れるのでずっといい。
私の言葉に、店長は「あー…」と小さく呻くとぐしゃぐしゃと前髪を手で掻き上げた。
「ごめん、……どっちかっつーと、俺の自己満足」
「え?」
「面倒見がいいわけじゃないんだよ。ただ単に俺が、調子悪そうな人とか、心配になりそうな人見てるのが嫌なだけでさ…」
送らせて、と改めて言い直される。…ずるい。
そして結局今日も、店長の運転する車の助手席に座ってる。
***
カーラジオの流れる車内。
聞き覚えのある懐メロは、紗枝さんが好きだったJ-POPだ。
なんとも言えない気分で、車のシートに体重を預ける。
「…骨折したんですか?」
「ん?ああ、高校の時ね。……一時は意識不明で親なんかは結構大変だったらしいんだけど、2週間も意識ないと浦島太郎みたいな気分でさ。今でもどっか他人事なんだ」
「……なんでそんな…」
「飲酒運転の事故で。雪道だったから、多分余計に酷かったんだろうね」
運転席の店長は淡々と、本当に他人事のように話す。
それは、あえて自分の気持ちと切り離して喋っているようにも聞こえた。
……店長がお酒を飲まない理由も、運転がとても丁寧な理由も、なんとなく分かった気がした。
「この前言ってた、願掛って…」
私の問いかけに、店長はちらりとこちらを見ながら苦笑する。
「ああ、あれ。元カノ超える女の子がいたらお酒解禁って思って始めたんだけど、」
赤信号で車が停まる。
車窓から見る景色には、まだうっすらと雪が積もる。
――まぁもう、贖罪みたいなもんだから。
後半の声は、独り言のように小さく、自責の色が濃い。
いつもの店長とは似ても似つかない声音に、それ以上何かを聞ける雰囲気ではなかった。
***
《贖罪》
>自分の犯した罪や過失を償う行為を指し、一般的には「罪滅ぼし」や「罪をあがなうこと」を意味します
店長と別れてひとり、その場でスマホで意味を調べてしまった。
罪滅ぼし、つまり、自分が悪いことをしたと思っている。だからお酒を飲まない……。
あの会話の流れで元カノさんの話題が出ることも、一見無関係なのに、根っこは同じだと言われている気がする。
雪の日。
高校時代の交通事故。
今でも忘れられないほどの好きな人。
贖罪という言葉。
どうしても、彼女と重ねてしまう。
「……いや、でも、」
多分これは、パンドラの箱だ。
想像している通りなら、なおさら。
これ以上深掘りして、その後私はどうするつもりなんだ。
身に覚えのない自分の中の記憶を抉って、20年近く引き摺る他人の傷も抉って。
「私が誰より他人じゃん……」
こんな記憶、なければよかったのに。
胸が痛い、頭が痛い。
それでも今さら、なかったことになりはしない。




