05 奈央と紗枝さん 2
新年明けて、1月5日。
「ルーチェ」新年出勤初日。
珍しく雪が降った。
今日ばかりは「おはようございます」の代わりに「明けましておめでとうございます」とお店に入っていく。
今日はオープンからのシフト。
既に店長と里香さんは着替えを終えて店に出ていた。
キッチンから物音がするので、和泉さんももう入っているんだろう。
「あけおめ〜奈央ちゃん」
「おめでとうございます、里香さん」
「なんかテンション低め?」
「……冬、嫌いなんですよね…」
冬、というか、正確には雪が嫌い。
紗枝さんの記憶の影響も大きいのだろう、この季節はどうにも夢見が悪いのだ。
――彼女の記憶の最後はいつも、雪のある景色で終わるから。
真っ白な風景に、嫌でも鮮やかな赤が目立つから。
「ここにも店長みたいな事言ってる子がいる」
「え?」
「店長も嫌いなんだって、寒いの」
「昔の傷が痛いんだよ〜」
傷?と聞き返すと、店長は「昔、足と肋骨折ってさ〜」と軽い調子で教えてくれた。
それ、結構な大怪我では…。
「さて、今日もよろしくお願いしますよ」
そんな雑談もしつつ、にっこり笑う店長はすっかり営業モードだ。
はーいと返事をして私もユニフォームに着替えに行く。
今日はロングシフトだ、頑張ろう。
***
――痛い、熱い、寒い。
いつも、一番新しい記憶の紗枝さんは泣いている。
それを見る度、彼女のことなんて調べなければ良かったといつも思う。
だって今の私は、彼女がどうして泣いてるのか知ってしまったから。
冬の交通事故だった。
病院に運ばれたけど、結局助からなった。
他にも何人か巻き込まれたのに、紗枝さんだけが。
――痛い、熱い、寒い。
視界が、白くて、赤くて――。
「――伊藤さん?」
「っ、」
がばっ、と身体を起こす。
バイト先の休憩室。
デスクに突っ伏したまま、……寝てた……?
「てん、ちょ…」
「ごめんね。休憩だから何してても良いんだけど、さすがに寝ながら泣いてるのほっとけなくてさ」
しゃがんで、椅子に座る私と目線を合わせてくれる。どした?と聞かれて、何も答えられずに首を振る。
「すみません……ちょっと、変な夢…」
「ん、今日はもう上がる?」
「や…、大丈夫です…すみません…」
「無理しないよーに」
ポンポン、と頭を撫でられる。
店長が先に休憩室を出て、ひとり。
「あー…しんど」
小さく呟いて、目元をゴシゴシと擦る。
これからずっと、私はこの、覚えのない記憶に悩むんだろうか。
誰かと、この思いを共有する日はくるんだろうか。




