表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

05 奈央と紗枝さん 2

新年明けて、1月5日。

「ルーチェ」新年出勤初日。

珍しく雪が降った。


今日ばかりは「おはようございます」の代わりに「明けましておめでとうございます」とお店に入っていく。

今日はオープンからのシフト。

既に店長と里香さんは着替えを終えて店に出ていた。

キッチンから物音がするので、和泉さんももう入っているんだろう。



「あけおめ〜奈央ちゃん」

「おめでとうございます、里香さん」

「なんかテンション低め?」

「……冬、嫌いなんですよね…」



冬、というか、正確には雪が嫌い。

紗枝さんの記憶の影響も大きいのだろう、この季節はどうにも夢見が悪いのだ。


――彼女の記憶の最後はいつも、雪のある景色で終わるから。


真っ白な風景に、嫌でも鮮やかな赤が目立つから。



「ここにも店長みたいな事言ってる子がいる」

「え?」

「店長も嫌いなんだって、寒いの」

「昔の傷が痛いんだよ〜」



傷?と聞き返すと、店長は「昔、足と肋骨折ってさ〜」と軽い調子で教えてくれた。

それ、結構な大怪我では…。



「さて、今日もよろしくお願いしますよ」



そんな雑談もしつつ、にっこり笑う店長はすっかり営業モードだ。

はーいと返事をして私もユニフォームに着替えに行く。

今日はロングシフトだ、頑張ろう。



***



――痛い、熱い、寒い。


いつも、一番新しい記憶の紗枝さんは泣いている。

それを見る度、彼女のことなんて調べなければ良かったといつも思う。

だって今の私は、彼女がどうして泣いてるのか知ってしまったから。


冬の交通事故だった。

病院に運ばれたけど、結局助からなった。

他にも何人か巻き込まれたのに、紗枝さんだけが。



――痛い、熱い、寒い。

視界が、白くて、赤くて――。




「――伊藤さん?」

「っ、」



がばっ、と身体を起こす。

バイト先の休憩室。

デスクに突っ伏したまま、……寝てた……?



「てん、ちょ…」

「ごめんね。休憩だから何してても良いんだけど、さすがに寝ながら泣いてるのほっとけなくてさ」



しゃがんで、椅子に座る私と目線を合わせてくれる。どした?と聞かれて、何も答えられずに首を振る。



「すみません……ちょっと、変な夢…」

「ん、今日はもう上がる?」

「や…、大丈夫です…すみません…」

「無理しないよーに」



ポンポン、と頭を撫でられる。

店長が先に休憩室を出て、ひとり。



「あー…しんど」



小さく呟いて、目元をゴシゴシと擦る。

これからずっと、私はこの、覚えのない記憶に悩むんだろうか。



誰かと、この思いを共有する日はくるんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ