04 奈央と店長 1
クリスマス会は3時間ほどでお開きになった。
二次会に向かうメンバーもいる中、私はひとり駅へと向かう。今ならまだ終電間に合うし。
そう思っていると
「伊藤さん、乗ってきな。送るから」
と声を掛けられた。
「店長」
「高校生の女の子、こんな時間に1人で帰らせるわけに行かんでしょ」
言うが早いが、店長は「お疲れ〜」とさっさと駐車場へと歩いていく。
断るタイミングを見失って、私も慌ててその後ろを追いかけた。
2シーターの国産車。
「どーぞ」と助手席のドアを開けてくれて、そのまま乗り込んでしまう。
家どの辺だっけ?と聞かれて住所を伝えると、「了解」と言いながら車は走り出した。
「ありがとうございます…。佐々木さんとかじゃなくて良かったんですか…?」
明らかに泥酔ってやつだったと思うんだけど…。
私の心配をよそに店長はニヤリと笑う。
「俺の愛車に野郎を乗せる席はない」
和泉がいるから大丈夫だろ、と言葉を続ける彼に、やっぱり胸の奥がざわざわした。
そんなに信頼してるのになんで…。
「店長って彼女いないんですか?」
「ん?やっぱり惚れた?」
「違います!」
赤信号でゆっくりと車がブレーキをかける。
店長はチラリとこちらに視線を向けたあと、「いないよ」と言いながら再び前を向く。
――青信号。
「今後も作る気もないし、多分一生独身。遊ぶならワンナイトかセフレで十分」
「……。」
店長の視線は、前を見たままだ。
あんな質問した私も悪いけど、こんなにオープンな話をされるとも思っていなくて、正直言葉に困ってしまう。
「大失恋したんだよね。俺。ちょうど、高校生の頃」
「え……」
「女々しいことに、未だに忘れられないんだよ。当時の彼女のこと。
その後何人かと付き合ってもみたけど結局ダメで、じゃあもういいかってなって、今。」
いつもと変わらない、軽い口調。でもそれは、嘘をついているようには思えなかった。
「こんな男だから、伊藤さんみたいな可愛い女の子は引っ掛かっちゃだめだよ」
視線は前を見据えたまま、こちらには向かない。
それ以上何も言えなくなって、カーラジオの声だけが響いていた。
***
「伊藤さんち、この辺?」
「あっ、はい」
終始丁寧な運転で、店長は家の前まで送り届けてくれた。
玄関前までゆっくりと車を停めて、わざわざ運転席から助手席側に回ってドアを開けてくれる紳士ぶり。
じゃあおやすみ、と挨拶をして走り去る店長の車を見送って、車内の会話をぼんやりと思い返す。
高校生の大失恋……。
それって、20年近く引きずってるってことじゃないんだろうか。
……重い。重すぎる。
「やっぱ試しに付き合ってみるとか無理すぎる…」
こっちは軽い気持ちでも、相手にそんなに引きずられたらたまったもんじゃない。
そこまで想ったり想われたりできるって、少し、羨ましいけれど。
どんな彼女さんだったんだろうなぁと、店長と、顔も知らない元彼女さんの高校時代を想像した。
ざわざわする、ずきずきする。
この気持ちはなんだろう。




