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03 奈央とクリスマス

「奈央ちゃんは来月のクリスマス会来れそう?」



閉店後、片付け作業をしていると和泉さんにそんなことを言われた。

現在12月初旬。クリスマス会?と首を傾げていると


「そう言えば奈央ちゃんは初めてだったね。毎年12月26日に近所のお店でクリスマス会やるの」


と教えてくれた。



「予定がなければどう?お店も毎年この日は定休だから」

「へぇ〜」



クリスマス会なのに26日なのは多分、デートや記念日に配慮した結果なのだろう。

イタリアンレストラン、掻き入れ時である。



「ルーチェでやらないんですね」

「せっかくの休日まで自分のためにご飯作りたくないじゃない?」



茶目っ気半分、本音半分の和泉さん。



「クリスマスは予定あるの?」

「いやー……多分……ないです」



脳内にちらつくのは、未だに放置したままのメッセージ。

バイト終わったら返信しなきゃな、と内心でため息をつく。

私の微妙な受け答えに何かを察したのか、和泉さんは励ますようにポンポンと私の背中を叩いてくれた。



***



半年前。

バイトの面接で初めてこの店に入って、初めて店長に会った。

金髪で、メガネで、軟派。

高校生になりたての私の周辺には今までいなかったタイプの人だった。

それなのに、何故か気になる。

気になって気になって仕方がない。


このざわつきは、一体なんなんだろう。



***



「今年も1年お疲れっしたー!カンパーイ!!」



12月26日、バイト先の近所の居酒屋チェーンにて。

クリスマス会と称した鍋パーティー。忘年会かも知れない。

バイトリーダーの佐々木さんの音頭で乾杯をする。

殆どのメンバーがアルコール、高校生の私はジンジャエール。

皆盛り上がってるなぁと何気なく見渡せば、部屋の隅に座る店長はひとり烏龍茶だった。

ちょっと意外、と思いながら眺めていると、目が合う。

反射的にペコリと頭を下げると、店長はおかしそうに笑いながら側へ寄ってきた。



「見惚れてた?」

「違いますぅ。アルコールじゃないんだなって思って」

「…あー…、車だから」

「なるほど…」



ハンドルキーパー。飲酒運転ダメ絶対。



「つーか、飲まなくていいように車、かな」

「お酒苦手なんですか?」



それこそ意外。

ザルなイメージだったのに。


店長は氷の入ったグラスを揺らしながら、「んー…願掛みたいなもん」と呟くようにいう。

意味はよくわからなかっつけど、なんとなく突っ込んで聞くようなことでもない気がした。



「伊藤さんはハタチになっても絶対アイツみたいに飲んじゃダメだからね」



アイツ、と名指しされたのは佐々木さんだった。

めちゃくちゃ飲んでめちゃくちゃ喋り倒してる…。

「そのうち潰れるぞ、あれ」と呆れたように笑いながら、それでも止めに行く店長はやっぱり大人。



「奈央ちゃんっ♪」

「うわっ、」



後ろから抱きつかれる。

柔らかくてあったかくて甘いコロンの良い香り。



「里香さんも酔ってますね…」



コロンの香りとは別に、今日はちょっとお酒くさい…。



「奈央ちゃん、イヴも昨日もバイト入ってたんだってぇ?彼氏未満とのデートはどうしたよ?」

「彼氏未満じゃないですもん〜」



うりうり、と頬擦りしてくる里香さんにおもちゃにされつつ答える。

バイト仲間の大学4年生のお姉さん。

春からは就職してCAさんらしい。和泉さんとはまた違ったタイプの華やかな美人である。



「フッたの?」

「……んだけどなんか諦めてくれなくて…」

「青春じゃーん。とりあえず付き合ってみたらいいのに」

「ええ〜…」

「他に気になる人でもいる?」



よいしょ、と私の隣に座る里香さん。

反射的に店長をチラ見してしまった私に気付いたらしく、「……店長?」と耳打ちされた。



「いや…あれくらい大人がいいなぁってだけで…。あの人はいろんな意味で見込みないじゃないですか」

「早く和泉さんとくっついちゃえばいいのにね」



酔った勢いなのか、普段より踏み込んだことを言う里香さん。だけど私も同じ思いなのだった。

もしあの2人が結婚でもすれば、このざわつきは収まるんだろうか。

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