14 伊藤 奈央
季節は巡り、冬が終わり、春になる。
そんな1年の移り変わりを3回繰り返して、私は大学2年生になった。
駅前の待ち合わせスポット。
春先のこの季節は何かと人も多い。
スマホを握りしめたまま、再会できるかと少し心配していたけれど、どうやら杞憂に終わったようだ。
「里香さん!お久しぶりです」
改札口からブンブンと手を振ってやってくる女性。
3年ぶりに会う里香さんは、派手だった髪色を黒く戻し、すっかり仕事のデキるCAさんの雰囲気を醸し出す美女になっていた。
「伊藤ちゃん、大人っぽくなったねぇ。この春から大学2年だっけ?」
「はい」
3年。――19歳。
相変わらず、紗枝さんの思い出は私の脳内で繰り返されている。
それでも、彼女の記憶を引き継いだ私は、とうとう彼女より年上になった。
高3の夏に、大学受験のために一度辞めたルーチェのバイトは、大学合格を機にまた再開させてもらった。なんだかんだ、今では学生バイトの中で一番の古株だ。
店長は店長のまま。
相変わらず、仕事が出来て、軽薄で、気遣いの出来る人だ。
私との関係も何も変わらない。
ただほんの少し私が店長に対して軽口を叩くことが増えて、それに対する店長の絡みが親しげになっただけ。
周りから見ればきっと「バイト歴が長いから」くらいの関係性に見えるのだろう。
私と店長の間を繋ぐ、かけがえのない女の子のことは、私たちだけの思い出話になっている。
「でも結局、くっつくのにあれから3年かかってるわけじゃん?長すぎでしょ2人とも」
ルーチェへ向かう道すがら、里香さんはそう言って笑う。
「それぞれ落ち着くべきところに落ち着いたって感じはしますけどね」
「まぁね〜、オーナー大喜びでしょ」
「うん、次は孫だーって大騒ぎして和泉さんに本気で叱られてましたし」
「うっわ、めちゃくちゃ想像出来る…」
3年という時間の中で私が大学生になったように、店長はようやく前に進む決心がついたらしい。
変わらずに側で想い続けた和泉さんに応えるつもりになったのか、和泉さんがさらに押したのか。
この度2人は「結婚」という運びとなり、里香さんはお祝いパーティーのために3年ぶりに、下宿先だったこの街まで足を伸ばしてくれたのだった。
派手な挙式や披露宴ではなく、自分たちの働くお店で、というのが店長と和泉さんらしい。
「そういえば伊藤ちゃんは、あれから彼氏出来たの?」
「ふふ〜出来ました。大学の同期!」
「えっ、どんな人?イケメン?写真ないの?」
「優しくて良い人ですよ〜」
一歩を踏み出す気になったのは、多分私も同じだ。
紗枝さんに追いついて、並んで、追い抜いて。
私の人生は、道標のない真っ白な地図になった。
紗枝さんの好きなものを共有するのも不思議で楽しかったけれど、これからは、私が思う好きなものをちゃんと大切にしてみたいと思えるようになった。
「いらっしゃい。2人とも、わざわざありがとね」
ルーチェの前に着くと、店長がいつもの調子で待っていた。
レンタルの白銀のタキシードもしっかり着こなしているのはさすがだと思う。
カッコよくて、眩しくて、彼女が大好きだった人。
雪は溶ける。
春は来る。
どんなにつらく、痛くても。
「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう」
柔らかく笑う店長は、とても幸せそうで。
きっともう彼の瞳には、私と紗枝さんが重なって見える日は来ないのだろう。
ふと空を見れば、ピンク色の桜の花びらが舞っていて。
おめでとう、よかったね。たいちゃん。
そう言って紗枝さんが笑っている気がした。
これにて完結です。
初めて人に読んでもらうつもりで書いたオリジナルのお話。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
お読み頂きありがとうございました。




