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とあるブラックな運び屋の話  作者: 獏麒


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2/3

2.


アラームも鳴ってねぇのに、もう動いてる。

習性って怖ぇな。

俺の頭ん中には「命令=即出発」って条件反射が組み込まれてる。

誰のせいかって? 言うまでもねぇ。あの女狐だ。


洗面所の鏡に映った顔は死人みたいだ。

目の下のクマは二段構え。

口の端には乾いた血。

寝不足、アルコール、ストレス。人生ハッピーセットをお届け。

社会に順応できる方が異常だって、いつも思う。


――S8。

最寄りの“ステーション”であり、うちの業界じゃ“地獄の入り口”の略称。

組織の荷物受け渡しはここを経由する。

駅じゃない、倉庫でもない、灰色の無名ビル。

正式名称はたぶん誰も覚えてねぇ。

便利だから“エスエイト”で通ってる。

便利ってのはつまり、面倒が省けるってことだ。


法定速度+αで飛ばして二十分。

車内にはカフェインとタバコの煙と、

「帰りたくねぇ」が三割増しになった俺の息。


S8の駐車場に滑り込み、エンジンを切る。

時間を確認――午前五時十五分。

ギリセーフ。

いや、アウトかもしれねぇけど、もう考える気力もねぇ。


エレベーター横のロッカー、8番。

暗証番号を入れると、ガチャリと小気味いい音。

中にはバックパックが一つ。

それと、いつもの黒封筒。


封を切ると、パスポート、国際免許証、携帯、チケット。

……ほんと、仕事早ぇなうちの総務課。

善意の犯罪はいつだって迅速だ。


航空券は鳳華行き、エコノミークラス。

出発七時、到着九時四十五分。

日帰りミッション。

帰りの便は十八時。

指定は「変更不可」――はっ、成功しても最後のルート分岐で死ぬ仕様かよ。


バックの中身を確認。

ノートPC一台、ノート一冊、USB一本、

紙幣が八枚。鳳華共和国のかん紙幣。

表面に描かれてるのは、誰か知らねぇ英雄。

裏には「信義と繁栄」って文字。

笑わせんな。繁栄してんのは権力だけだろ。


「二万……ケチりやがって……」


Damn。

装備は揃ってる、問題は中身だ。

つまり俺。

この仕事、成功しても給料が上がるわけじゃない。

ミスったら、墓も用意されねぇ。


車に戻る途中、空が薄く明るくなってくる。

早朝の光は嫌いだ。

昨日のミスを、わざわざスポットライトで晒してくる。


運転席に腰を沈め、エンジンをかける。

機械音が低く唸る。

バックミラー越しに、S8のビルが見える。

あれは出口じゃない。

“入ったら戻れねぇ方”のゲートだ。


「……鳳華ね。どんな地獄が待ってることやら。」


アクセルを踏み込み、タイヤが冷たいアスファルトを蹴る。

BGM代わりにラジオをつけると、

ちょうどニュースキャスターが“鳳華共和国の政情不安”とか抜かしてた。

タイミングが良すぎて笑えねぇ。


「フラグ乱立、っと——行くか。」


遠ざかるS8の影をバックミラー越しに見ながら、

俺はスロットルをもう少し踏み込んだ。

RTA継続中。

目的地:空港。制限時間:あと一時間半。

賞品:生存。


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