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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第一章 プロト村 幼少期編
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第7話 「魔法」



その日は結局、厩舎での仕事が終わるまで母の姿を見ることはなかった。いつも昼頃になると様子を見に来る村長も今日は顔を出さなかった。


少し、いつもと違う日常。


村の中も王都からの使者への対応のためかいつもより騒がしく感じたが、どうやらこの村で一番大きな村長の家にその使者を招き、何やら話をしていたとか。


仕事の終わった夕方、いつもの温かな表情の母が迎えに来てくれて、降り積もる雪道には帰路につく二人の足跡。


今日の夕飯は少し質素のような気がした。どうやら急な王都からの使者への献上のため、それぞれの家から食材などを集めたせいだそう。


それでも、母の作ってくれたごはんはとても暖かった。


いつも通り、ベッドで眠りにつこうとしたが、母の姿がどこにも見えない。


「お母さん…?」

母の部屋の扉の隙間から明かりが漏れている。

眠い目をこすって母の部屋の扉を開けると、薄汚れた本に向けて魔法陣を展開している母を見つけた。


「ごめんね、起こしちゃった?」

「大丈夫、まだ寝てなかったし」

「そう、もう夜も遅いから早く寝るのよ」

「何してるの?」


魔法陣が展開されていた本がすごい速さでページがめくれていっている。

「速読の魔法よ。速読の魔法陣を通して文字を読んでいるの。」

「そんなに早く読めるんだ!私もその魔法使ってみたい!」


母は本当にすごい。

魔法で火も起こせるし、本も早く読めるし、


ドラゴンも落ち着かせることができる。


「フェリスもいつか力が顕現すると思うわ」

「それっていつ?」

「ん〜個人差もあるからね…いつかな」

「イリアンはもう物体浮遊魔法を使いこなしてる…なんで私はできないんだろう…」


魔法にも才能やセンスという概念があり、天性の才能によりその力の強弱が決まる。

もちろん顕現が早ければ早いほどその力の鍛錬が可能だ。

きっとイリアンは…


「大丈夫、お母さんが顕現したのは14歳のときだから」

「え、そうなの?」


意外だ。母のように魔法を使いこなしている人は他に見たことがない。

まぁ、この村の人しか見たことないというのもあるが、今の私にとって母はすごい人ということに変わりはない。


「大丈夫よ。必ずその時は来るから。」


微笑みながら私を見つめる瑠璃色の瞳に嘘偽りはなかった。


「わかった。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


そっと扉を閉じ、隙間から漏れる灯りを背に寝室へと向かう。


「…なんであの子が……どうして…」


その夜、エレイアは部屋から出ることは無く、古い書物を読み漁っていたのだった。



翌日、今日の仕事は休みだ。


厩舎の仕事は村長が担当して、1日を自由に使うことができる。

私は気が向かないが、ある人物の元へ向かっていた。

それは…


「朝早くからなんだよ…今日は休みだぞ…」

ボサボサの寝癖とまだ寝巻きのイリアンが気だるそうに村長の家から出てきた。

「おはよイリアン、ちょっと教えてほしいことがあるから来て」

「はぁ?!おいちょっと待てって…!!」

そういうと、私は返事も待たず、彼の腕を強引に引っ張って外へ連れ出した。


「突然なんだよ!俺まだ朝飯も食べてねぇんだぞ!」

「いいから来て!」

「良くねぇよ!」

「別に1日食べなくても大丈夫だってば!」

「1日?!」


村の少し外れにある広い雪原に着くとイリアンの腕を離した。

「ったく…なんで朝早くからこんなところに…」


「早速だけど、私に魔法を教えて」

「………帰るわ」

「だめ!」

「そんな事に付き合ってるほど暇じゃねぇ!」

「暇でしょ!!」

「せっかくの休みなんだ!一日ゴロゴロする予定だったんだぞ!!」

「じゃあ暇じゃん!!!」

「いいから離せ!!」

「やだ!!!」

「うぐぐぐぐぐっ!!」

「おーーしーーえーーてーー!!」


多分、人生最大の力を振り絞った気がする。


「ぐっ…はぁ…はぁ…なんだその馬鹿力…びくともしねぇ…」

「ふぅ…ふぅ…教えてくれる?」

観念したのか疲弊したのか、イリアンはその場に膝から崩れ落ちていった。


「わかった…わかったから少し休憩させてくれ…」

「やった!」


まだ朝日が登り始めたばかりだというのに、イリアンは既に一日分のエネルギーを使い果たしたかのようだった。


少しして…


「どうやって魔法陣を展開しているの?」

「どうやってって言われてもなぁ…感覚?」

「分かるように説明して」

「そう言われても、上手く言葉にできないんだって」

「感覚ってどういうこと?」

「ん〜…じゃあフェリスはどうやって呼吸してるんだよ」

「え?」

「物を掴むときは何を意識している?」


どうやって…そう言われても上手く言葉が出てこない。

「えーっと…」

「そういうことなんだよ。呼吸の仕方とか掴む方法のやり方なんて言われても説明できないだろ。」

「うん…」

「魔法も一緒だ。感覚として自然とできる様になったんだよ。」


そう言うと、イリアンは手から小さな魔法陣を展開して見せた。


「気づいたらこうやって使えるようになって、あとは何度も何度も繰り返してたら使いこなせるようになった。それだけだ。」


「そうなんだ……」

何かヒントが見つかると思ったのに…やっぱり自然と顕現するのを待つしかないのかな…


「そういえばさ、こんなこと出来るようになったんだぜ」

もう一度魔法陣を展開し直すと、天に向かって掲げる。

すると、どこからともなく何やら光る無数の小さな物体が魔法陣に集まり始めた。

「これって…」

その正体に見覚えがあった。


「あの時木箱に紛れてた雷電甲虫だよ。」

「もしかして、呼び寄せてるの?」

「おう、まだ数匹しか呼べないけどな」

バチバチと甲虫同士電流を流しながら、イリアンの周りを飛び続けている。

「まだ集めることしかできないけどさ、今こいつらを使って何かできないか練習してるんだ」

「すごい…」


魔法が早く顕現すれば、それだけ鍛錬に時間を使うことができる。

雷電甲虫を操りながら、自在に誘導する練習を始めているイリアンを見て、あの母の言葉がより重くのしかかってきた。





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